「共有者惣代A外4名」考
履歴
2002.08.27初稿
2002.09.02第二稿
2002.09.09第三稿
2002.09.26第四稿
2002.12.29第五稿
2003.02.14第六稿 参考文献追加
2007.03.10第七稿 参考文献追加
はじめに
100条1項1号申請
100条1項2号申請
100条1項3号申請
100条2項申請
判決による登記(総論)
不動産登記法第100条1項2号にいう「判決」
表題部所有者に「共有者惣代A外4名」と記載のある土地の場合
判決による所有権保存の登記の取扱いについて(平成10年法務省通知)
実務の取扱によればどのようにすべきでしょうか。
先例がいう要件を個別的に見ていくことにします。
判例1/名古屋地裁平成13年5月30日判決(控訴)
被告の主張、原告の主張、裁判所の判断を整理してみましょう。
原告がどのように先例を批判したのか
これに対する裁判所の判断は次のように要約できます。
判例2/名古屋地裁平成14年4月26日判決(控訴)
原告、被告の主張とそれに対する裁判所の判断
2つの判例を最後にまとめてみますと
「墓地の所有をめぐって」という興味深い記事(第三稿での追加)
控訴審における和解的解決(第四稿での追加)
参考文献(第五稿で追加)
不動産登記法
(明治三十二年二月二十四日法律第二十四号)
第百条 始メテ為ス所有権ノ登記ハ左ニ掲ゲタル者ヨリ之ヲ申請スルコトヲ得
一 表題部ニ自己又ハ被相続人ガ所有者トシテ記載セラレタル者
二 判決ニ依リ自己ノ所有権ヲ証スル者
三 収用ニ因リ所有権ヲ取得シタル者
○2 一棟ノ建物ヲ区分シタル建物ニ在リテハ表題部ニ記載シタル所有者ノ証明書ニ依リ其者ヨリ所有権ヲ取得シタルコトヲ証ス
ル者モ亦前項ノ登記ノ申請ヲ為スコトヲ得
「始メテ為ス所有権ノ登記」とはいわゆる「所有権保存」登記のことをいいます。
登記簿でいえば、甲区欄(所有権欄)にはじめて行う登記のことです。
不動産登記法第100条は、その保存登記の申請資格者を定めています。
1番目には、自己が表題部に所有者として登記されている者です。
これは最も一般的な場合だといえます。例えば家を新築して登記をする場合など、建物表示登記をして、引き続き所有権保存登記を申請します。
2番目には、表題部に所有者として登記されている者の、相続人が申請する場合です。
これは、例えばAが表示登記をして、保存登記をしない間に、Aが死亡した場合、Aの相続人B,C,Dにおいて、遺産分割協議を行いBが相続することとなっ
た場合、Bは自己の相続を証明する書面を添付して、所有権保存登記を申請することができます。この場合に、相続登記(所有権移転)という手続きは発生しま
せん。この場合の保存登記を特に「相続保存」などと呼んだりします。
以上が不動産登記法の100条1号に該当する場合です。
以上の場合を、包括して「100条1項1号申請」といい、所有権保存登記の申請書には、その旨を記載することになっています。
不動産登記法
第百一条 前条第一項ノ規定ニ従ヒテ登記ヲ申請スル場合ニ於テハ申請書ニ第百条第一項第何号ニ依リテ登記ヲ申請スル旨
ヲ記載シ申請書ノ副本及ビ必要ナル証明書類ヲ添附スルコトヲ要ス但登記原因及ビ其日附ヲ記載シ又ハ第三十五条第一項第
二号乃至第四号ニ掲ゲタル書面ヲ添附スルコトヲ要セズ
(以下略)
次に、不動産登記法第100条2号は、「判決ニ依リ自己ノ所有権ヲ証スル者」は、所有権保存登記ができる旨規定しています。
この規定は、表題部に所有者Aと登記されていても、Bが判決で自分が所有権を有していることを証明すれば(Bが所有者であるという判決があれば)Bは所有
権保存登記をすることができるということです。
この規定が、まさに今回のテーマである「共有者惣代A外4名」という登記に密接に関連してくることになります。
次に、不動産登記法第100条3号は、「収用ニ因リ所有権ヲ取得シタル者」に、所有権保存登記の申請資格を与えています。
この規定は、収用の場合に被収用者に申請に協力させることは一般に困難であり、他面、土地収用は公の手続であり、その事実を認識することは、登記官にとっ
ても容易だからと説明されています(不動産登記法(第三版)幾代通 有斐閣 P267)
この規定は、区分建物についての特則を定めたものです。
一般に、表題部に所有者Aと登記されている場合、Aから所有権を売買により取得したBが保存登記をしたい場合どのようにすればよいでしょうか。前述のとお
り、保存登記の申請資格を定めている不動産登記法100条には、そのような規定はありません。この場合、まずA名義で保存登記をして、その後AからBへの
所有権移転登記(売買を原因とする)を申請することになります。表題部の所有者を「売買」を原因として、Bに変更をして、その後Bが所有権保存登記を申請
するという方法は、不動産登記法第81条ノ6がこれを禁止しています。
不動産登記法
第八十一条ノ六 表題部ニ記載シタル所有者又ハ其持分ノ変更アリタルトキハ所有権ニ関スル登記ノ手続ニ依ルニ非ザレバ之 ヲ登記スルコトヲ得ズ
すなわち、表題部に記載された所有者に変更があったり(先の例でAからBが買ったなど)、持分に変更があったり(A1/2、B1/2と記載されてい るが、B持分の4/1をAが買ったなど)した場合には、「所有権ニ関スル登記ノ手続ニ依ルニ非ザレバ之 ヲ登記スルコトヲ得ズ」つまり、表題部に関する登記(表示の登記といいます)ではなく所有権に関する登記(権利の登記といいます)の手続によらなければな らないとしています。
しかし、他方区分建物(マンションなど)については、不動産登記法第93ノ2により、表示登記は個々の専有部分ごとに時を異にして行うのではなく、 一棟の建物に属する建物を同時にすべて行うことが要請されています。通常は、業者名義で全部の部屋について表示登記がなされています。そうしますと、 101号室はAさん、102号室はBさんと購入した場合に、第八十一条ノ六により、業者が保存登記をして、購入者へ移転登記を行うということになります。 これは、業者にとっても、購入者にとっても負担増となりますので、特にこの場合は、第八十一条ノ六に反して、業者(表題部記載の所有者)から所有権を取得 したAが保存登記を申請できるということにしたものです。なお、この場合はあくまで売買に基づくものであることを公示するために、保存登記でありながら、 登記上に原因が「年月日売買」と記載されます。この場合の保存登記を一般に「売買保存」と呼んでいます。
いよいよ本題に入るわけですが、もう一つ確認をしておかなければならない事柄があります。
それは「判決による登記」という特殊な登記の申請形態についてです。
登記の基本原則/共同申請主義
登記は、利益を受ける者と、不利益を受ける者とが共同して申請することにより、真実の登記がなされるであろうとの考えから、不動産登記法は基本原則として
「共同申請主義」を採用しています(住所変更登記など本来的に対立当事者がいない場合は別)。しかし、またその例外として不動産登記法は例外規定を置いて
います。
不動産登記法
第二十七条 判決又ハ相続ニ因ル登記ハ登記権利者ノミニテ之ヲ申請スルコトヲ得
ここでは、二つの例外が規定されています。
1つは「相続」です。相続の場合は、対立当事者としての現登記名義人はすでに死亡しており、また相続の事実は戸籍簿等により比較的容易かつ確実に登記官が
これを推認しうるとの理由によるものです。
2つ目は、「判決」による登記です。
手続上の「登記義務者」が「登記権利者」に協力して登記を申請すべき実体上の義務(登記協力義務)があることが判決によって明確にされた場合には、あえて
現実の共同申請行為という形式に固執する必要はないからである(幾代通前出 P101以下)。
不動産登記法27条でいう「判決」は、次のものであることを要します(幾代通前出 P105)。
1.給付判決であること。実体法上の物権の帰属・変動等についての確認判決や形成判決では足りない。
2.「登記協力義務者」(手続上の登記義務者)を被告とするものでなければならない。
3.確定判決でなければならない。登記申請手続を命ずる判決には「仮執行の宣言」を付すことはできない。
4.本来の判決の外、執行力に関して確定判決と同一の効力を認められるものを包含する。
裁判上の和解調書、請求の認諾調書、民事調停法による調停調書、この調停に代わる決定、家庭裁判所の審判、仲裁判断、外国判決
これに反して、公正証書(公証人作成)は、27条にいう「判決」には含まれない。
不動産登記法第100条1項2号にいう「判決」は、同法27条にいう判決と同じでしょうか(幾代通前出 P260以下)。
1.表題部に所有者として記載されているAまたはその相続人に既判力の及ぶものでなければならない。
(注)既判力/民事訴訟法上、裁判が確定した効果として、同一当事者間で同一事項が後日別の訴訟で問題となったとしても、当事者は確定した裁判で示 された判断に反する主張をすることができず、裁判所もこれと抵触する裁判をすることができないという拘束力のこと(民訴法199条)。実体的確定力ともい う。(有斐閣法律用語辞典1993年)
2.確定判決でさえあれば、確認判決・給付判決・形成判決いずれでもよい。
3.裁判上の「和解調書」など、確定判決に準ずる効力を有するものも本条にいう「判決」に含まれる。
確認判決/確認の訴えの目的である権利関係または法律関係の存否について判断した判決。これによって、原告・被告間の法律関係が確定する。
給付判決/被告である債務者に対し、債権の目的である特定の行為を履行すべきことを命ずる判決、すなわち、給付の訴えにおける原告勝訴の判決。
形成判決/形成の訴えを認容する判決。権利変更判決、創設判決ともいう。離婚の請求を認める判決がその例で、この判決の確定によって離婚という法律上の効
果がはじめて生じる。
以上述べたところから、表題部所有者に「共有者惣代A外4名」と記載のある土地の場合、どうすれば保存登記ができるかということについては概ね結論 が出たと思われます。所有権を有している(と主張する者)Bが、「共有者惣代A外4名」を相手に、訴訟を提起し、登記手続をせよという給付判決でも、Bに 所有権があるという確認判決であっても、いずれかの勝訴判決を獲得できればよいということになります。しかし、問題はそのように単純ではありません。最も 困難な問題は、「外4名」の住所氏名が全く不明であるということです。
ここで、問題を少し単純にするために「共有者A外4名」の場合を考えてみましょう。
この場合でも「A外4名」を相手に、訴訟をしようとするBにとって、やはり「外4名」が全く不明である場合、どうしようもないという状況が生まれることは
変わりありません。
この場合、「外4名」が明らかにできなければ、およそ登記をすることができなくなる可能性が高いことから、これを救済するための道筋が付けられまし た。
この先例には登記研究誌上解説が付されています(登記研究615−211以下)。
今、この解説を踏まえて、上記先例を検討してみますと、
[照会事項1] は、不動産登記法100条1項2号の「判決」の被告適格に関するものです。
つまり、誰を被告とした判決でなければならないかということです。
例えば、表題部に所有者としてA、B2名が記載されている時、所有権を主張するCはAのみ又はBのみを相手にした裁判で勝訴しても保存登記ができるのか、
登記上に現れていないDを相手にしてもよいのか、A、B2名を相手にしなければならないかという問題です。これに関しての考え方は3つあります。
第1の考え方:表題部に記載されている所有者全員を被告としなければならないという考え方で、登記実務の伝統的な考え方です。
第2の考え方:判決理由中において、Cが所有権を有していることが確認されていれば、必ずしも全員を相手にしなくてもよいという考え方です。この考え方に
対しては、馴れ合い訴訟により、他の共有者の権利を害するおそれがあるという批判があります。
第3の考え方:表題部に所有者として記載されている者でなくてもよいとする考え方です。この考え方は、旧土地台帳法時代において、判決による所有権の保存
登記の申請がされた場合には、土地台帳に所有者として登録されている者が被告であることを要しないという取扱がされていたことを踏まえ、これを踏襲した考
え方であるとされています。
[本先例の考え方] 本先例は、以上3つの考え方の内、第1の考え方をとることを確認したものです。これにより、所有者が不知の間に、第三者間の馴れ合い
訴訟の勝訴判決によって、第三者名義の保存登記がされるといった悪質な事態は回避されることになります。
[照会事項2] は、いわゆる「記名共有地」に関する登記事務の取扱に関するものです。
ここでは、まず「記名共有地」についての説明が必要になります。
登記研究615−213以下の、「記名共有地」に関する解説を一部引用をさせて頂きます。
旧土地台帳法時代においては、土地台帳に記載されるべき土地の共有者が多数いる場合には、土地台帳の所有者欄には単に「何某外何名」と記載し、共同人名
簿(共有者台帳)を別冊として設け、そこに他の共有者全員の氏名住所を記載するという取扱いがされていた。この共同人名簿は、年代や税務署管轄等によって
それぞれ名称や様式を異にしていたが、現在の登記簿の共同人名票に類似した様式により作成され、これを土地台帳とは別に編てつし、保管していたようである
(収税署地租事務取扱規程(明治二八年大蔵省令第四号))。土地台帳は、昭和二五年に家屋台帳とともに税務署から法務局に移管され、一元化が完了するまで
の間、法務局において台帳事務が行われていた(共有者が多数いる場合の法務局における台帳事務の取扱いは、上記と同様であった(土地台帳事務取扱要領(昭
和二九年六月三〇日付民事甲第一三二一号民事局長通達第八九条参照)。)が、昭和三五年の「不動産登記法の一部を改正する法律」(昭和三五年法律第一四
号)により、表示に関する登記手続が新設されるとともに、土地台帳制度は廃止され、未登記の土地で土地台帳に登録されているものについては、この台帳に基
づいて登記簿の表題部を新設することとされた(同法附則二条一項、三五年改正省令附則三条一項、登記簿・台帳一元化実施要領第三参照)。
この一元化作業において、土地台帳の所有者欄に「何某外何名」と記載されていた土地の表題部を作成する際に、共同人名簿等が税務署から登記所に移管され
なかった等の理由により、「外何名」を明らかにすることができなかったものについては、共同人名票を作成する(細則五二条)ことなく、単に、登記簿の表題
部の所有者欄に「何某外何名」と移記され、その後の登記がされることなく今日まで存置されている登記簿がある。このような登記のされている土地が、いわゆ
る記名共有地といわれているものである。
いわゆる記名共有地の実体は、明治期からの小さな集落の共同体としての権利能力なき社団の所有、市区町村の所有、旧財産区の所有等であると考えられ、ま
た、登記簿の地目から推測される当時の利用形態としては、墓地あるいは入会地が圧倒的に多かったものと思われる。このことから、これらの多くの土地は、所
有者自身も自己の財産であるとの認識を持つことなく、また、十分な管理もされなかったなどの理由から、相続や担保権の設定の登記等がされることなく今日に
至っているものが多いと思われる。(登記研究615−213以下)
では、このような表題部に所有者「何某外何名」との記載のある不動産について、実務の取扱によればどのよう
にすべきでしょうか。
(1)表題部所有者の更正登記
@登記所に移管されるべきであった「外何名」の氏名住所を記載した別冊の共同人名簿
A旧土地台帳法時代に交付を受けた土地台帳謄本等
等の共有者を明らかにする資料を探し出し、それらの書類に基づいておこなう。
(2)所有権の保存登記
上記(1)で明らかとなった、表題部所有者もしくはこれらの者の相続人の申請によっておこなう
(3)他に真実の所有者が存在する場合は、(2)の後自己名義に所有権移転登記を受けるか、もしくは(1)の名義人全員を相手に所有権確認訴訟を提起し、
その勝訴判決を得て、不動産登記法100条1項2号の規定に基づいて所有権の保存登記を申請する
ということになります。
しかし、現実には「外何名」を明らかにすることは困難であり、結果土地台帳から移記されたままの状態で存置せざるを得ないケースが相当あったと言わ
れています。
平成10年3月20日法務省民三第552号民事局第三課長通知が出された背景
これについても、登記研究615−216から、一部を引用させて頂きます。
本件回答は、いわゆる記名共有地についても照会事項一の回答の立場を堅持すると、「外何名」を明らかにすることができない場合には、およそ登記をすること
ができなくなる可能性が高いことから、これを救済するため、表題部の所有者欄に「甲外何名」と記載されている場合において、「甲」のみを被告とする所有権
確認訴訟に勝訴した者が、当該訴訟の判決書を申請書に添付して、所有権の保存登記の申請をしたときは、次の要件を満たすものに限って、便宜、当該判決書を
不登法一〇〇条一項二号にいう判決として取り扱って差し支えないものとするものである。
つまり、先述の「第1の考え方:表題部に記載されている所有者全員を被告としなければならないという考え方で、登記実務の伝統的な考え方です。」と いう見解に立つ限り、「外何名」が判明しない限り登記することが不可能となってくることを救済しようということです。しかしながら、この原則を緩和するこ とは、すなわち「所有者が不知の間に、第三者間の馴れ合い訴訟の勝訴判決によって、第三者名義の保存登記がされるといった悪質な事態」の発生する危険性を 含むものであるところから、先例は一定の要件を要求したものです。
では、先例がいう要件を個別的に見ていくことにします。
要件1/対象土地が記名共有地であること
このことは、この先例の出された背景、趣旨から当然と考えられます。ですから、建物であるとか土地台帳一元化後に表示の登記がなされた土地などはこの対象
とはならないと考えられます。
要件2/「甲外4名」とある場合、甲を被告としていること
登記上特定することが可能な者全員を被告とする所有権確認訴訟であることが必要となると考えられます。例えば、表題部所有者に「甲及び乙外何名」とある場
合、甲及び乙は少なくとも被告とする必要があることになります。甲が死亡している場合には、甲の相続人全員を被告とすべきことは当然です。
要件3/原告の所有権を確認する判決であること
照会事項二は、当該判決の理由中
に、「甲外何名」の記載にかかわらず当該土地が原告の所有に属することが証拠に基づいて認定されているときに限り、便宜、当該判決を、不動
産登記法第一〇〇条第一項第二号にいう判決として取り扱って差し支えない、としているところから本案判決に限られ、裁判上の和解、調停等は含まないと考え
るのが相当であるとされています。
要件4/判決の理由中 において、登記簿表題部の記載にかかわらず、当該土地が原告の所有に属することが証拠に基づいて認定されていること
判決の理由中において、「甲外何名」の所有権が否定され、原告の所有に属することが証拠によって認定されていることが必要とされます。そこから欠席判決や
自白事件の判決の場合はこの取扱の対象外と考えられます。
判例1
名古屋地裁平成13年5月30日判決(控訴)
この判例は、上記先例と異なる判断をしたわけですが(よって、国側が控訴)その内容を簡単に整理したいと思います。
事案を簡単にしますと、表題部所有者に「共有総代A」と記載ある土地につき、時効取得をしたBがAの相続人A'を相手に、所有権の確認訴訟を提起したとこ
ろ、A'は答弁書、準備書面などを提出せず、また期日にも欠席したため、いわゆる「欠席判決」によりBが勝訴しました(以下別件判決といいます)。Bは、
この判決正本を添付して、自己名義での所有権保存登記(100条1項2号申請)を申請したところ、登記官は上記先例にしたがって、「欠席判決や自白判決は
上記先例の対象外である」ことを理由に、さらに「A'がAの相続人であることの証明書」の添付がなされていないことを理由に申請を却下しました。そこで、
Bがその却下処分の取消しを求めたのが本事件です。
争点は2つあります。(上記判決より)
争点1/別件判決が法一〇〇条一項二号所定の「判決」に該当するか。
争点2/本件登記申請に当たり、原告○田が○田○右工門の地位を承継したことを示す相続を証する書面の添付が必要か。
争点2の原告○田はA'であり、○田○右工門はAと考えて頂くとよいのですが、事案の複雑なところは、実は時効取得したBが単一人ではなく、B1、B2、
B3、そしてA'を含む4名だということです。ですから、A'は別件判決の被告でありながら、保存登記の申請人の一人でもあり、本件訴訟の原告の一人でも
あるということです。ですから、争点2は、単純に言えば所有権確認訴訟の被告A'が、登記簿記載のAの相続人であるという証明書の添付が必要かどうかとい
うことです。
それぞれの争点について、被告の主張、原告の主張、裁判所の判断を整理してみましょう。
| 争点1 | 争点2 | |
| 原告 | 民事訴訟法第三章証拠の最初の条文である一七九条が自白に関するものであることから明らかなとおり、自
白は証拠の王である。このように、民事訴訟法上、対席判決と欠席判決の効力は区別されていないので、被告の見解は不当である。 また、本件は、本件土地の表題部名義人の承継人である原告○田が原告○部らとともに本件土地を時効取得したという事案であるが、このような場合、原告○ 田が請求原因を争うことはあり得ず、およそ対席判決を得ることが期待できないから、本件通知の適用されるべき事案ではない。したがって、本件登記申請を却 下した本件決定は違法である。 |
原告○田の相続関係については、別件判決において、請求原因に掲げられて自白されているから、このよう な判決に基づいて登記申請をする以上、相続を証する書面の添付は不要と解すべきである。 |
| 被告 | (ア) 法は、登記官が登記申請に当たり形式的審査権のみを有するとしていることから、当該登記によって
登記簿上不利益受ける者の利益が不当に害されぬよう、何らかの形でその登記手続に関与する機会を与えている。したがって、法一〇〇条一項二号所定の判決
は、馴合訴訟等によって登記簿上不利益を受ける者の利益が不当に害されぬよう、表題部に所有者として記載されている者全員を被告とする判決に限られるべき
である。 この理は、登記簿の一元化作業の際、「甲外何名」と記載されていた旧土地台帳に基づき登記簿の表題部を新設する時に、共同人名簿等が税務署から登記所に 移管されなかった等の理由から、共同人名票が作成される.ことなく、表題部所有者欄に「甲外何名」と移記されたままの土地(以下「記名共有地」という。) についても当てはまるので、本来ならば「外何名」の共有者全員を明らかにし、これらの者全員を被告として所有権確認訴訟等を提起し、勝訴することを要する と解すべきである。 (イ) しかしながら、記名共有地の場合は、甲以外の共有者全員が明らかにする資料が得られることは極めて少なく、現在の所有者が新たな登記を申請するこ とができなくなるという問題点が生ずる。そこで、登記実務では、このように表題部に記載された甲以外の共有者の氏名住所が明らかでない記名共有地について は、甲(又はその承継人)のみを被告とする所有権確認訴訟において勝訴判決を得た者から、その判決書を添付して保存登記の申請があった場合には、その判決 の理由中に、当該土地が登記簿の記載にかかわらず原告の所有に属することが証拠に基づいて認定されている場合(以下、このような判決を「対席判決とい う。」)に限り、便宜、同判決を法一〇〇条一項二号所定の判決として取り扱うこととしている(平成一〇年三月 二〇日法務省民三第五五二号民事局第三課長通知。以下「本件通知」という)が、欠席判決や自白判決はこの取吸いの対象外である。 本件通知の目的は、前記のとおり、表題部に「外何名」として記載された甲以外の共有者の利益が馴合訴訟により不当に害されることを防止するため、表題部 に所有者として記載された者全員を被告とすべきであるという法の本来の要請から外れたことによる弊害を最小限にとどめつつ、登記制度が正当に機能しなくな る事態を回避することにあり、合理性と妥当性を有する。 (ウ) 本件土地の登記簿表題部には「共有総代○田○右工門」と記載されているところ、○田○右工門以外の共有者が明らかでない点で本件土地は記名共有地 と同様に取り扱うのが相当である。そうすると、別件判決は、欠席判決である点で本件通知の要件を満たさず、法一〇〇条一項二号にいう判決に該当するとはい えない。 現に、本件土地については、原告ら以外に共有者らが存在しており、原告らのみが占有してきたのではないことが明らかとなっているから、本件判決は馴合訴 訟の結果にすぎなく、これに基づいて保存登記することを認めると、他の共有者の利益を害するおそれが現実のものとなる。 したがって、本件登記申請には、所有権を証する書面の添付がなく、法四九条八号の却下理由が存するから、本件決定は適法である。 |
前記のとおり、法は、当該登記により登記簿上利益を受ける者の利益が不当に害されぬよう、その者に対して 登記手続に何らかの形で関与する機会を与える制度をとっているところ、登記簿の表題部に所有者として記載された者は、登記簿上不利益を受ける者に該当する から、法四二条の趣旨に照らし、法一〇〇条一項二号に基づく保存登記申請の場合にも、表題部に所有者として記載された者の承継人を被告とする判決であれ ば、そのことが証拠によって認定されるか、同項一号の場合と同様、相続を証する書面の添付が必要と解すべきである。これを本件についてみると、別件判決 は、原告○田が表題部所有者欄に記載されている○田○右工門の承継人であることが証拠によって認定されておらず、かつこれを証する戸籍謄本等が添付されて いなかったから、法四九条八号の却下理由が存する。 |
| 裁判所 | (1) 我が国の不動産登記には公信力が認められていないが、取引における重要性等に鑑み、できる限り実
体上の権利関係を反映したものであることが望ましいのはいうまでもない。法は、その目的に資するべく、ある登記によって不利益を受けると考えられる登記簿
上の利害関係人に対し、当該登記手続に関与する機会を保障する制度を採用している。けだし、原則として形式的審査権しか有しない登記官による審査にこれを
期待するのは無理であるから(例外的に実質的審査権を有する場合であっても、対象物の形状等、外観から容易に認識できる事柄は別論として、実体上の権利関
係の把握には限界がある。)、かかる利害関係人に何らかの形で登記手続に関与する機会を与えることによって、実体との符合が一応確保できると考えられるか
らである。このような手続保障は、共同申請主義の原則(法二六条一項)に最も端的に現れているが、その例外とされる登記においても、その趣旨が妥当する場
合があると考えられる。 例えば、表示登記は共同申請主義の対象外とされているものの、法は、不動産の表示登記を申請する際に、申請人の所有権を証する書面の添付を要求し(法八 ○条二項、九三条二項)、登記官に対して必要があるときは職権で所有権の帰属を含めて表示に関する事項の調査権限を与え(法五〇条一項)、調査結果が申請 内容と一致しないときは申請を却下する権限を与えている(法四九条一〇号)など、できる限り実体上の権利関係を反映させるべく、慎重な手続を定めている。 したがって、かかる手続を経て表題部に所有者として記載された者(又はその相続人)は、当該不動産の所有者であることにつき事実上の推定を受けるというべ きであり、前記の手続保障を 与えられるべき登記簿上の利害関係人に当たると解すべきである。もっとも、昭和三五年の登記簿一元化によって土地台帳上の所有者の記載が表示登記に移記さ れた場合には、前記の慎重な手続が採られたわけではないものの、土地台帳に登載されて納税義務を負担していた事実は、一般にその者が実体上の所有者である ことを推測させると考えられるから、同様に解すべきである(法一〇〇条一項一号が表題部に所有者として記載されている者又はその相続人に保存登記の申請資 格を付与しているのは、このような制度的裏付けが背景として存在していることによるものと考えられる。)。 (2) ところで、法一〇〇条一項二号が判決による保存登記申請を認めた理由は、一般に司法裁判所が運営する訴訟手続が、相手方に自己の利益を防御する機 会を保障する(当事者対席主義)など、慎重、公正な構造となっており、相手方は、不当に自己の利益を奪われぬよう防御活動を尽くすのが通例であることか ら、最終形成物である判決が実体上の権利関係を反映する可能性が高いと考えられたためである解される。 そうすると、同号所定の判決に該当するためには、表題部に所有者として記載された者又はその相続人が当該訴訟手続上の当事者たる地位を認められ、現実に 自己の利益を防御する機会を与えられた上で形成されたことが必要と解される。けだし、前記のとおり、表題部に所有者として記載された者は、実体上の所有権 者との推定を受け、登記簿上の利害関係人に当たるというべきであり、その地位を覆滅するためには、当該訴訟手続に関与する機会を与えられる必要があると考 えられるからである。この理は、権利者が複数存在する場合、すなわち複数の共有者が表示されている場合にも妥当するから、前記の判決の要件としては、表示 された共有者全員(又はその承継人)を被告として提起されたものであることを要すると解される。 (3) しかしながら、法は、前記のとおり、当該登記によって不利益を受けると考えられる登記簿上の利害関係人に対して手続関与の機会を与え、その活動を 通じて登記と実体上の権利関係との符合を図ろうとするものであるが、これを超えて、登記簿に現れていない実体上の所有者を探知し、これに対しても手続保障 を与えようとするものではない。そのようなことを登記申請人に求めても不可能なことが多いし、そもそも、かかる者は所有者であるとの推定を受けるものでは ないので、登記簿上の利害関係人に該当しないというべきである(ちなみに、仮に実体を反映しない不実登記がなされたとしても、登記に公信力がない以上、原 則として実体上の権利者が自己の権利を奪われることはない。)。 本件土地の場合、前記のとおり、表題部の所有者欄に「共有総代○田○右工門」と記載されており、当時の実体上の権利関係が○田○右工門の単独所有(近代 的所有制度におけるそれ)でなかったことは窺われるものの、他の権利者が誰で何人存在していたのか、その持分はどれだけか等の実体上の権利関係の詳細につ いては、登記簿上何らの知る手掛かりがない(〈証拠略〉によると、一般に記名共有地につき共有者の氏名等の記載が脱落しているのは、土地台帳が税務署から 法務局に移管され、登記簿の表題部の新設作業を法務局が行った際、法務局が税務署から共同人名簿等の移管を受けないまま、共同人名票を作成することなく、 単に「甲外何名」などと表題部に移記したことによるものであることが認められるが、本件土地がこれに該当するのかについても不明である。)。 かえって、〈証拠略〉によると、本件土地は懸廻間池という名称の農業用ため池であり、原告○部らを含む周辺住民が水利目的で使用してきたことが認められ るところ、一般に、記名共有地の実体は、明治期からの小さな集落の共同体としての権利能力なき社団、市区町村、旧財産区等の所有に係わるもので、墓地ある いは入会地等として使用されてきたことが多かったとされており、これに○田○右工門の肩書として「共有総代」と記載されていることを総合すると、本件土地 はため池の水を使用する農民により構成された入会団体の入会地であり、○田○右工門は総代の名称で当該団体を代表することを委ねられたと推測することがで きる。ところで、入会権の内容は第一次的には各地方の慣習に従うとされ(民法二六三条、二九四条)、入会団体の構成員が対象となる土地に対してどのような 権利を有するかは当該団体の規約等によって定まるところであるが、前記肩書に照らすと、本件土地の所有の実体は入会団体の構成員個人の持分を想定しないも のであり、そもそも土地台帳においても共同人名簿が作成されることがなかったとも推測される。 そうすると、本件において前記の手続保障を与える対象者としては、○田○右工門以外には考えられず、かつ同人に手続保障を与えることによって満足すべき ところ、前記(争いがない事実等)のとおり、原告○部らは、○田○右工門の唯一の承継人である原告○田を被告として別件訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得 たのであるから、別件判決は、手続保障としての当事者要件を充足すると判断するのが相当である(もっとも、以上に述べた当事者要件充足の結論は、本訴にお いて提出された資料に基づき形成されたもので、本件登記申請時に、登記官である被告が認定可能であったか否かの問題については、争点(2)に対する判断に おいてさらに検討する。)。 (4) 次に、別件判決の内容について検討するに、法一〇〇条一項二号には「自己ノ所有権ヲ証スル」ものとのみあるから、主文の形式としては給付判決に限 られず、確認、形成のいずれでもよく、また、名文で定められているわけではないが、確定判決と同じ不可抗争力を有する和解調書、仲裁判断、調停調書、審判 もこれに含まれると解される。要するに、主文に掲げられていると理由中で説示されていることを問わず(すなわち、登記申請人の所有権の存在が既判力によっ て確定しているか否かを問わず)、全体として所有権保存登記の申請人がその対象不動産の所有権者であることを認める内容のものであれば、ここにいう判決に 該当すると解される。 そして、判決が、原告である登記申請人の所有権の存在を肯認かる過程には、証拠による認定のほか、被告の自白による場合(説明すれば、権利自白の場合、 事実自白の場合及び擬制自白の場合がある。)があるが、民事訴訟法は、基本原理として弁論主義を採用し、原則として両者を等価値のものと扱っている(被告 に対する送達が公示送達によった場合は、擬制自白の規定の適用が排除されているが、これは被告が現実に訴訟手続に関与することが期待できないことを考慮し た結果である。)から、どちらの過程による判断を経た場合であっても、前記の判決の資格を有すると解すべきである。 (5) この点につき、被告は、記名共有地の場合、共有者全員を被告にするものでない限り、原告である登記申請人と被告とが馴合訴訟をすることにより他の 共有者の利益が害されるおそれがあるとして、本件通知の示すとおり、証拠による認定でない場合には前記の判決足り得ず、本件土地についても記名共有地と同 様に扱われるべきであると主張する。 しかしながら、前記のとおり、弁論主義(この原理自体、真実発見を制度目的の一つにしていると理解するのが一般的である。)を採用する民事訴訟法の下で は、証拠に基づく判決と自白に基づく判決との聞に差別は設けられていないうえに、前記の判決には、和解調書、調停調書を含むと解するのが通説的見解である が、これらは証拠による認定を要素としない点において自白と基本的性質を同じくすると考えられること、証拠による認定の場合でも、所有権取得原因事実の一 部については自白が成立するのが通常であり、むしろ最近の実務においては、できるだけ実質的な争点に絞り込む努力が払われている(平成一〇年一月一日施行 の民事訴訟法もこのような実務の積み重ねの上に成立したものである。)から、所有権取得原因事実の全部について証拠による認定がなされることは実際には稀 であること、馴合訴訟の危険性についても、対席判決であるからといって馴合いでない保障はなく、逆に自白等の場合であっても馴合いでないことは十分にあり 得る(むしろ、当該登記によって不利益を受けると考えられる登記簿上の利害関係人が自白に至った場合、真実を反映している可能性が高いとも考えられる。) こと、以上の理由から、被告の前記主張は、その前提となる認識を誤ったもので、合理性を欠くといわざるを得ない(被告自身、本件通知が論理的帰結ではな く、便宜上のものであることを自認している。)。 (6) そうすると、○田○右工門の唯一の承継人である原告○田を被告として提起された所有(共有)権確認訴訟の確定勝訴判決である別件判決は、法一〇〇 条一項二号所定の判決に該当し、これにより原告○部ら及び原告○田が本件土地の持分四分の一の共有者であることが証明されるというべきである。 |
(1) 法一〇〇条一項二号は、保存登記の要件として、判決によって自己の所有権を証することのみを定め
ているから、法一〇一条一項本文の「必要ナル証明書類」も当該判決の正本又は謄本(及び確定証明書)を指すと解される。 もっとも、前記のとおり、法一〇〇条一項二号所定の判決に該当するためには、表題部の所有名義人又はその承継人が、現実に被告として当該訴訟手続に関与 したことを要すると解されるところ、別件判決書〈証拠略〉の請求原因には、被告として表示された原告○田が○田○右工門の唯一の承継人であることが記載さ れ、擬制自白の対象とされているものの、これだけでは、登記官としてその事実を認定することは困難というべきであるから、原告らは、本件登記申請に際し、 他の資料によってこの点を証する必要があったものと解される。 したがって、原告らが、本件登記申請に当たり、原告○田が○田○右工門の地位を承継したことを証する書面を添付しなかったことにつき争いのない本件にお いては、前記「必要ナル証明書類」の添付が欠けていたものであり、法四九条八号に該当する事由があったと判断できる。 (2) しかしながら、前記書面〈証拠略〉は、その性質上、さして時間を要することなく追完し得るものであり、かつ追完によって別件判決が法一〇〇条一項 二号所定の判決に該当することが明らかになると考えられるから、被告としては、原告らに対して補正の機会を与えるべきであったにもかかわらず(法四九条た だし書)、これを与えた形跡がない。 そうすると、別件判決がおよそ同号所定の判決に該当する可能性がないとの前提で、補正の機会を与えることなく、法四九条八号に基づいて原告らの本件登記 申請を却下した本件決定は違法というべきである。 |
被告(国側)の主張は、先例の立場ですから、ここでは原告がどのように先例を批判したのか、そしてそ
れに対して裁判所はどのように判断したのかを(争点1)中心に見ていくことにし
ます。
原告の先例批判は、先例が「欠席判決」や「自白事件の判決」を対象外としている点についてです。先例は、判決理由中において「甲外何名」の所有権が否定
され、原告の所有権が証拠によって認定されている必要があることを理由としています。そして「欠席判決」や「自白事件の判決」の場合には、証拠に基づいて
明確に認定されているとは認められないから、対象外なのだといいます。
原告は、正にこの点に関し、「民事訴訟法第三章証拠の最初の条文である一七九条が自白に関するものであることから明らかなとおり、自白は証拠の王であ
る。」として、民事訴訟法上、対席判決と欠席判決の効力は区別されていないことを理由として、被告の見解を不当だとしています。
さらに、原告は、本件の特殊性(所有権確認訴訟の被告が原告中の1名である)から、原告○田(=被告)が請求原因を争うことはあり得ず、およそ対席判決
を得ることが期待できないから、本件通知(先例を意味します)の適用されるべき事案ではないと主張しています。
(注)対席判決/民事訴訟において当事者双方の弁論に基づいてされる判決。当事者の一方の弁論だけに基づいてされる欠席判決に対するもの。(有斐閣法律用
語辞典1993年)
これに対する裁判所の判断は次のように要約できます。
(1)法は、その目的(登記が実体的権利関係を反映すること)に資するべく、ある登記によって不利益を受けると考えられる登記簿上の利害関係人に対し、当
該登記手続に関与する機会を保障する制度を採用している。
(2)法一〇〇条一項二号が判決による保存登記申請を認めた理由は、一般に司法裁判所が運営する訴訟手続が、相手方に自己の利益を防御する機会を保障する
(当事者対席主義)など、慎重、公正な構造となっており、相手方は、不当に自己の利益を奪われぬよう防御活動を尽くすのが通例であることから、最終形成物
である判決が実体上の権利関係を反映する可能性が高いと考えられたためである解される。
この理は、権利者が複数存在する場合、すなわち複数の共有者が表示されている場合にも妥当するから、前記の判決の要件としては、表示された共有者全員
(又はその承継人)を被告として提起されたものであることを要すると解される。
(3)本件において前記の手続保障を与える対象者としては、○田○右工門以外には考えられず、かつ同人に手続保障を与えることによって満足すべきところ、
前記(争いがない事実等)のとおり、原告○部らは、○田○右工門の唯一の承継人である原告○田を被告として別件訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得たのであ
るから、別件判決は、手続保障としての当事者要件を充足すると判断するのが相当である。
(4)別件判決の内容について検討するに、法一〇〇条一項二号には「自己ノ所有権ヲ証スル」ものとのみあるから、主文の形式としては給付判決に限られず、
確認、形成のいずれでもよく、また、名文で定められているわけではないが、確定判決と同じ不可抗争力を有する和解調書、仲裁判断、調停調書、審判もこれに
含まれると解される。
判決が、原告である登記申請人の所有権の存在を肯認かる過程には、証拠による認定のほか、被告の自白による場合(説明すれば、権利自白の場合、事実自白
の場合及び擬制自白の場合がある。)があるが、民事訴訟法は、基本原理として弁論主義を採用し、原則として両者を等価値のものと扱っている(被告に対する
送達が公示送達によった場合は、擬制自白の規定の適用が排除されているが、これは被告が現実に訴訟手続に関与することが期待できないことを考慮した結果で
ある。)から、どちらの過程による判断を経た場合であっても、前記の判決の資格を有すると解すべきである。
(5)@前記の判決には、和解調書、調停調書を含むと解するのが通説的見解であるが、これらは証拠による認定を要素としない点において自白と基本的性質を
同じくすると考えられること、A証拠による認定の場合でも、所有権取得原因事実の一部については自白が成立するのが通常であり、むしろ最近の実務において
は、できるだけ実質的な争点に絞り込む努力が払われている(平成一〇年一月一日施行の民事訴訟法もこのような実務の積み重ねの上に成立したものである。)
から、所有権取得原因事実の全部について証拠による認定がなされることは実際には稀であること、B馴合訴訟の危険性についても、対席判決であるからといっ
て馴合いでない保障はなく、逆に自白等の場合であっても馴合いでないことは十分にあり得る(むしろ、当該登記によって不利益を受けると考えられる登記簿上
の利害関係人が自白に至った場合、真実を反映している可能性が高いとも考えられる。)こと、以上の理由から、被告の前記主張は、その前提となる認識を誤っ
たもので、合理性を欠くといわざるを得ない(被告自身、本件通知が論理的帰結ではなく、便宜上のものであることを自認している。)。
(6) そうすると、○田○右工門の唯一の承継人である原告○田を被告として提起された所有(共有)権確認訴訟の確定勝訴判決である別件判決は、法一〇〇
条一項二号所定の判決に該当し、これにより原告○部ら及び原告○田が本件土地の持分四分の一の共有者であることが証明されるというべきである。
この判決によって、先例がいう「要件4」が否定されたことになります。
判例2
名古屋地裁平成14年4月26日判決(控訴)
事案の概要は概ね以下のとおりです。
ある土地について、保存登記がなされておらず、表題部所有者欄に「共有惣代A外四名」との記載がなされていた。
登記簿上A以外の共有者の氏名住所を示す記載はなく、また資料も備え付けられていない。
Aは死亡し、その相続人はD、Fである。
「権利能力なき社団甲」は、明治7年以降、この土地につき所有の意思をもって平穏公然かつ占有の始めにおいて善意無過失にて占有を継続し、その所有権を取
得したところ、D、Fがその権利を争っているとして、甲の区長であり甲から土地の信託を受けている原告Xが、D、Fを相手に所有権の確認を求める訴えを提
起した。
名古屋地裁半田支部は、平成13年11月7日、証拠に基づき甲がこの土地を時効取得した事実を認定した上で、原告の請求を認容する判決を言い渡した。
原告は、被告(登記官)に対し、平成13年12月18日、法100条1項2号に基づき、登記申請書に相続証明書及び判決正本等を添付し、保存登記の申請を
した。しかるに、被告は平成14年1月11日、申請書に必要な書面の添付がないとして、申請を却下する決定をした。
ここまで、読まれた方は、この事件の原告が名古屋地裁平成13年5月30
日判決をよく研究して、訴訟を遂行し、かつ登記申請に及んだことを理解されるでしょう。
すなわち、被告には登記上表示されているAの相続人であるD、Fを相手とし、原告の所有権の認定は証拠に基づいてなされ、かつ登記申請書には判決正本は当
然のことながら相続証明書を添付し、平成10年法務省通知の諸要件を満たす努力をしています。では、
なぜ登記官は申請を受理しなかったのでしょうか。本件の判決は、なお平成10年通知にいうところの判決の要件を満たしていないのでしょうか。それとも、平
成10年通知の射程外だというのでしょうか。それがまさに本件で争われたわけです。
では、原告、被告の主張とそれに対する裁判所の判断を見ていくことにしましょう。
本件における争点は、唯一、「本件決定の適法性。具体的には,別件判決は法100条1項2号所定の「判決」に該当するか。」という点です。
[原告の主張]
(1) 同号所定の「判決」に該当するためには,表題部に所有者として記載された者又はその相続人を相手にし,その者に自己の利益を防御する機会が与えら
れていれば十分であり,それを超えて,登記簿に現れていない実体上の所有者を探知し,これに対しても手続保障を与える必要はない。
(2) 本件土地の場合,表題部の所有者欄に「共有惣代A外四名」と記載されており,他の権利者が誰で,他に何人存在していたのか,また,その持分はどれ
だけかなどの実体上の権利関係の詳細については,登記簿上何ら知る手掛りがないから,A又はその相続人に手続保障を与えればそれで十分であって,別件判決
は,手続保障としての当事者要件を充足している。
(3) 被告は,総有の場合,共有惣代として表示された者のみを被告にした判決は構成員全員に既判力が及ばないとして法100条1項1号の判決には当たら
ないと主張するが,被告のいう「記名共有地」の場合についても,「外何名」を被告にしない限り,「外何名」の部分には既判力は及ばないはずであるにもかか
わらず,被告は,「外何名」を当事者としない判決でも上記判決として取り扱っており,矛盾している。
(4) 被告は,平成10年通知の趣旨を,いわゆる「記名共有地」に限定されると主張するが,ここにいう「記名共有地」が「甲外何名」と記載されているも
のに限定されるべき理由はなく,「共有惣代甲」とか「共有惣代甲外何名」と記載されたものも含まれると解すべきであり,本件についても平成10年通知の射
程距離内の問題として解決が図られるべきである。
[被告の主張]
(1) 法100条1項2号にいう「判決」は,これに基づいてされる所有権保存登記によってその利害に影響を受ける者が申請に係る登記簿の表題部に所有者
として記載されている者であるところから,その者又はその承継人に既判力の及ぶ判決でなければならない。
(2) 「共有惣代何某」の記載は,特定共有者による(狭義の)共有状態ではなく,地域住民による総有状態にある不動産について代表者名義で表示がされて
いると推認される。
(3) 本件土地の登記簿の記載からは,本件土地の実体法上の所有者は,入会団体の構成員全員であるということになり,本件土地について,所有権保存登記
の申請のため必要となる法100条1項2号の「判決」は,この入会団体の構成員らに既判力の及ぶものでなければならない。
(4) 本件土地に係る所有権保存登記申請について法100条1項2号の「判決」に当たり得るものは,本件土地(墳墓地)を利用する地域住民で構成される
入会団体とされる甲の構成員ら全員を被告とする固有必要的共同訴訟の判決でなければならない(登記官は,判決が,その理由中で上記構成員を確定し,これを
判示している限りにおいて,その確定に係る構成員らが当該判決において残らず被告とされているかどうかの訴訟要件の具備の有無について審査権限を有してい
る。)。しかるに,別件判決は,D及びFを被告とする訴訟についてされたものであり,本来不適法却下されるべきであったにもかかわらず,実体判決をした瑕
疵があるので,その既判力が,甲の構成員ら全員に対して及ぶ余地のないことは明らかであり,法100条1項2号の「判決」に該当しないというべきである。
(5) 平成10年通知に定める取扱いは,本件土地のように,表題部所有者欄の記載から団体の構成員
の総有に属するものと認められる不動産には妥当しない。
(6) 平成10年通知が前記の記名共有地を対象としたものであることは,通知の体裁からも明らかであるし,当局による平成10年通知の解説においても,
その旨明示されている。
(7) 本件土地の登記簿の表題部所有者欄の記載は,前記のとおり,「共有惣代A外四名」となっていて狭義の共有を示す「何某外何名」とはなっておらず,
本件土地は記名共有地ではないから,平成10年通知は,本件土地には妥当しない。
[裁判所の判断]
(1) 法は,その目的に資するべく,ある登記によって不利益を受けると考えられる登記簿上の利害関係人に対し,当該登記手続に関与する機会を保障する制
度を採用している。けだし,原則として形式的審査権しか有しない登記官による審査にこれを期待するのは無理であるから(例外的に実質的審査権を有する場合
であっても,対象物の形状等,外観から容易に認識できる事柄は別論として,実体上の権利関係の把握には限界がある。),かかる利害関係人に何らかの形で登
記手続に関与する機会を与えることによって,実体との符合が一応確保できると考えられるからである。
(2) 同号所定の判決に該当するためには,表題部に所有者として記載された者又はその相続人が当該争訟手続上の当事者たる地位を認められ,現実に自己の
利益を防御する機会を与えられた上で形成されたことが必要というべきである。けだし,前記のとおり,表題部に所有者として記載された者は,実体上の所有権
者との推定を受け,登記簿上の利害関係人に当たるというべきであり,その地位を覆滅するためには,当該争訟手続に関与する機会を与えられる必要があると考
えられるからである。この理は,権利者が複数存在する場合,すなわち複数の共有者が表示されている場合にも妥当するから,前記の判決の要件としては,表示
された共有者全員(又はその承継人)を被告として提起されたものであることを要すると解される。
(3) 当該登記によって不利益を受けると考えられる登記簿上の利害関係人に対して手続関与の機会を与え,その活動を通じて登記と実体上の権利関係との符
合を図ろうとするものであるが,これを超えて,登記簿に現れていない実体上の所有者を探知し,これに対しても手続保障を与えようとするものではない。その
ようなことを登記申請人に求めても不可能なことが多いし,そもそも,かかる者は所有者であるとの推定を受けるものではないので,登記簿上の利害関係人に該
当しないというべきである(ちなみに,仮に実体を反映しない不実登記がなされたとしても,登記に公信力がない以上,原則として実体上の権利者が自己の権利
を奪われることはない。)。
(4) 本件において前記の手続保障を与える対象者は,A(又はその承継人)以外には考えられず,かつ同人に手続保障を与えることによって満足すべきとこ
ろ,前記(争いがない事実等)のとおり,原告は,Aの承継人であるD及びFを被告として別件訴訟を提起し,勝訴の確定判決を得たのであるから,別件判決
は,手続保障としての当事者要件を充足し,法100条1項2号所定の判決に該当すると判断するのが相当である。
(5) また,平成10年通知は,前記のとおり,登記簿の表題部所有者欄に「甲外何名」と記載されているが,「外何名」と特定できない場合,甲(又はその
承継人)のみを被告として所有権確認の請求を認容した判決であっても,原告の所有権が証拠によって認定されている限り,法100条1項2号所定の判決とし
て取り扱う旨定めているところ,別件判決は,明らかにその要件を充足していると判断することができる。
(6) 平成10年通知についての当局の解説(甲4)は,「記名共有地の実体は,明治期からの小さな集落の共同体としての権利能力なき社団の所有,市区町
村の所有,財産区の所有等であると考えられ,また,登記簿の地目から推測される当時の利用形態としては,墓地あるいは入会地が圧倒的に多かったものと思わ
れる。」との記載がある反面,狭義の共有と総有とを区別し,前者のみを対象とする趣旨との記載は一切存在せず,かえって後者の土地について,今日の宅地開
発や道路整備等の開発に係る土地買収等の関係から登記上の取扱いについての問題点が顕在化するに至ったとして,同通知が発出される動機が解説されているこ
とからすると,通常の日本語読解能力を前提とする限り,同通知は,むしろ総有に係る土地を主たる対象として発出されたものと解さざるを得ない。このような
理解の正当性は,本件と同様に法100条1項2号所定の判決に該当するか否かが問題となった当庁平成12年(行ウ)第38号事件において,被告登記官が総有に係る土地
についても平成10年通知の対象とすべき旨主張していた(被告も自認している。)ことからも裏付けられる。
(7) 被告は,狭義の共有に係る記名共有地については登記簿の記載からその余の共有者を探知することは相当困難であるが,表題部所有者欄に「共有惣代何
某外何名」と記載された土地については必ずしもそうとはいえないと主張して,前記主張の合理性を補完しようとするが,被告主張のような経験則があるとはお
よそ認め難い(実質的にみても,狭義の共有においては共有者各人が共有持分権を有していて,自己の財産であるとの認識を持ちやすいから,その権利保全措置
を講じたり,証拠書類を作成するなどした結果,「外何名」に当たるその余の共有者を探知することが容易な場合も少なくないと考えられるのに対し,総有にお
いては,共有者の潜在的持分さえ存在しないため,自己の財産であるとの意識は希薄である上,その入会権者の地位の承継は相続により行われるとは限らず,慣
習や内部的な取決めによって行われることからすれば,その余の共有者のすべてを探知することが困難な場合も十分に考えられる。)上,被告自身も,総有関係
におけるその構成員の探知が困難な場合があること,及び被告がそのような困難性の差異があることについて実証的調査を行っていないことを自認しているか
ら,被告の前記主張は採用できない。
(8) 本件決定は,法100条1項2号所定の判決の解釈を誤った違法が存する上,本来適用すべき自己の上級庁が発出した通達を恣意的な解釈の下に適用せ
ず,ひいては行政における基本原則の一つである平等原則にも違反するものであるから,いずれの観点からも取消しを免れない。
被告の主張は、平成10年通知が、「記名共有地」を対象としたものであり、総有と思われる「共有者惣代A外4名」のような場合には適用されないという点に
つきるかと思われます。
この点、判決は「同通知は,むしろ総有に係る土地を主たる対象として発出されたものと解さざるを得ない。」としてこの被告の主張を退けています。
ここで、判決が述べている、「このような理解の正当性は,本件と同様に法100条1項2号所定の判決に該当するか否かが問題となった当庁平成12年(行ウ)第38号事件において,被告登記官が総有に係る土地
についても平成10年通知の対象とすべき旨主張していた(被告も自認している。)ことからも裏付けられる。」という箇所の当庁平成12年(行ウ)第38号事件とは、名古屋地裁平成13年5月30日判決のことであり、今判決文から該当の部分
を追ってみると、争点1についての被告の主張の(ウ)に「本件土地の登記簿表題部には「共有総代○田○右工門」と記載されているところ、○田○右工門以外
の共有者が明らかでない点で本件土地は記名共有地と同様に取り扱うのが相当である。」とあります。この点では、被告の主張は2つの事案において矛盾してい
ると言わざるを得ません。
次に、本判決が「平成10年通知についての当局の解説(甲4)は,「記名共有地の実体は,明治期からの小さな集落の共同体としての権利能力なき社団の所
有,市区町村の所有,財産区の所有等であると考えられ,また,登記簿の地目から推測される当時の利用形態としては,墓地あるいは入会地が圧倒的に多かった
ものと思われる。」との記載がある反面,狭義の共有と総有とを区別し,前者のみを対象とする趣旨との記載は一切存在せず,かえって後者の土地について,今
日の宅地開発や道路整備等の開発に係る土地買収等の関係から登記上の取扱いについての問題点が顕在化するに至ったとして,同通知が発出される動機が解説さ
れていることからすると,通常の日本語読解能力を前提とする限り,同通知は,むしろ総有に係る土地を主たる対象として発出されたものと解さざるを得な
い。」と判示している点につき、『当局の解説(甲4)』が何であるかは不明ですが、その部分と推測される登記研究615−214以下から、一部を引用させ
て頂きます。
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以上、2つの判例を最後にまとめてみますと、
判例1
名古屋地裁平成13年5月30日判決(控訴)
表題部所有者に欄に「共有総代A」と記載ある土地
判例2
名古屋地裁平成14年4月26日判決(控訴)
表題部所有者欄に「共有惣代A外四名」と記載ある土地
という相違がありました。
被告(国側)は、平成10年通知を根拠に、判例1では、「共有総代A」という記載も、A以外の共有者が不明という点では、「A外何名」という記名共有地と
同様に扱うのが相当であるとし、結果平成10年通知に基づき、欠席判決は含まれないとの主張をしました。しかし、判例2では、「共有惣代A外四名」という
記載は、記名共有地とは異なり、総有であるから、判決は外四名はおろか、当該総有構成員全員に既判力が及ぶものでなければならず、構成員全員を被告として
いない判決は、100条1項2号の判決には含まれないとの主張をしました。
裁判所の判断は、判例1、判例2共に、被告の主張を退け、原告の主張を認容したものとなっています。
被告は、両事件とも控訴をして、現在名古屋高等裁判所に係属中であると推測されます。
今後とも、両事件の推移に注目をしていきたいと思います。
登記インターネット(民事法情報センター刊)平成14年9月号177ページ以下の「登記官の窓」に「墓地の所有をめぐって」という興味深い記事が出 ております。
土地登記簿表題部所有者欄が「不詳」となっている不動産に関し、国に対し所有権確認訴訟を提起したという事案に関してです。
以下の3点について検討をしたということが書かれています。
(1)登記簿の所有者欄の記載が「不詳」ということから、国の所有と解することができるか。
(2)原告は、国に対する本件土地の所有権確認訴訟の勝訴判決を得ることで、本件土地につき保存登記をすることができるか。
(3)もし、できないとした場合、原告は、どのような方法により、本件土地につき保存登記をすることができるか。
検討結果は次のようであったようです。
(1)国の所有と解することはできないとの意見が多数であった。
(2)保存登記をすることができないとする意見が多数であった。
(3)表題部に記載された所有者の更正の登記(法81条の7第1項)が考えられる。
事の顛末は、「本件土地については、国有地でなく、過去において国有地であったこともないことから、本件訴えは被告適格を欠くか、又は即時確定の利
益を欠く不適法な訴えであるとして却下を求めたが、原告の請求が認容され、原告の所有権を確認する判決が確定したことにより、保存登記が経由されてい
る。」とのことです。
「ところで、その後、記名共有地に関して平成一〇年三月二〇日民三第五五二号第三課長通知(注)が発せられたことから」とあるところから、この事案は平成
10年通知が出る以前であったように思われます。
本文の締めくくりとして、次のように書かれている点が、今後参考になるのではないかと考えられます。
「今後、同種事案があったときは、同通知の射程内かどうか検討を要することになる。不動産登記法一〇〇条一項二号所定の判決に当たらないとした場合は、所
有権を証する書面として同判決書(原告の所有に属することを証拠に基づいて認定されているときに限る。)を添付して表題部の所有者の更正登記をした上で、
法一〇〇条一項一号の保存登記をすることができるものと考える。(N.H)
(注)登記研究六一五号二一一頁(平成一一年四月号)
聞くところ、名古屋地裁平成13年5月30日判決について、控訴 審(国側が控訴)において和解的解決がなされたようです。
その解決方法としては、表題部の所有者の更正登記をおこなった上で、所有権保存登記がなされたと言うことのようです。
表題部所有者の更正登記に必要な所有権証明書としては、確認書、承諾書(印鑑証明書)、土地利用規約、など添付書類について協議がなされ、結果としては上
記のような登記がなされ、訴えの取下がなされて事件としては終了したようです。詳細は不明ですので、以上は推測が含まれていることをお断りしておきます。
また、名古屋地裁平成14年4月26日判決についても、同様の解 決が図られるのではないかと推測していますが、詳細は承知していません。
要するところ、原告は不動産登記法100条1項2号による保存登記をすべく勝訴判決をとったわけですが、結果的には100条1項1号による保存登記 をすること(その前提として表題部所有者の更正登記が必要となります。)で解決が図られたと言うことになります。
なお、平成10年3月20日法務省民三第552号民事局第三課長通知については、上記解決が個 別事案についての個別的処理と考えられるので、この平成10年通知は変更されるということにはならないのではないかと考えます。
参考に「表題部所有者の更正登記」について一言すれば、この登記は表題部所有者に誤りがある場合になされるものです。誤りには、住所や氏名の文字等 の記載の誤りの類と所有者そのものが誤りである場合(Aとあるが実はBという場合)とがあります。根拠規定は不動産登記法第81条ノ7です。ここで注意を 要するのは、表題部所有者AからBが所有権の譲渡を受けた場合、この場合はAからBへの変更になりますが、この登記は表題部においてはできず、必ず所有権 に関する登記として(甲区における登記)しなければならないということです(不動産登記法第81条ノ6参照)。
◇月刊「登記情報」494号(2003年1月) 「大字○○」名義の所有権移転登記について
◇登記研究661号(2003年2月) 記名共有地の解消策の課題(仙台高裁長官 田中康久)
目次 一 本稿の課題
1 多数共有の場合の登記簿の記載の原則
2 多数の記名共有地の存在と本稿の検討課題
二 共有者が二名以上である場合の保存登記のための訴えの原則
1 保存登記のための「判決」の意義
2 訴訟の相手方
3 共有名義人に対する訴えの性質−必要的共同訴訟であるか否か
4 判決の内容
三 記名共有地である場合の登記処理
1 記名共有地の発生等
2 記名共有地の解消策
四 記名共有地についての保存登記のための訴訟について
1 訴訟の性質
2 訴訟の当事者
3 訴え提起前の実態調査の必要性
4 記名共有地の場合の訴状記載の特殊性及び添付書類の特殊性
5 裁判における審理範囲及び審理方法について
五 おわりに
◇登記インターネット88号(2007年3月)「記名共有地の登記識別情報処理についての一事例」(弁護士 田中康久)
目次
はじめに
一 具体的な事案の内容
1 本件土地の登記簿の記載等
2 本件土地の利用状態
@ 現時点におけるA共同墓地の利用状況
A 現時点におけるA共同墓地の利用者
B A共同墓地の管理規約の存在
C 乙の管理者就任
D 使用権の承継等の取扱い
E 本件土地の所有関係
F 乙名義での保存登記をすることについての構成員の同意
二 本件訴訟及び判決の構造
1 請求の趣旨(主文)の内容
2 原告
3 被告
三 登記先例
四 本件事案についての問題点の検討
1 記名共有地の課題
2 総有の態様
3 表題登記がある場合の保存登記
4 一号適用の課題
@ 共同人名票の追加編綴の可否
A 入会権における承継
B 承継の証明書
C 参考となりそうな一号処理の登記先例
D 入会権の場合の特殊扱いの必要性
5 二号適用の課題
@ 二号が適用される場合の「確定判決」の範囲
A 二号の「所有権確認」の意味
B 請求の趣旨(主文)第一項関係の原告適格
C 請求の趣旨(主文)第二項関係の原告適格
D 被告適格
6 請求の趣旨(主文)第二項の必要性
五 まとめ−本件判決が明らかにした今後の教訓
1 事実関係調査の必要性
@ 土地台帳との関係調査
A 土地の利用状況の調査
2 登記所との事前打合せの必要性
3 保存登記のための訴えの提起関係
@ 原告となるべき者
A 被告とすべき者
B 請求の内容
C 訴状記載の内容
4 早期解決の必要性
(了)