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司法書士の一日


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55回総会 第55回日本司法書士会連合会総会

 

 

 

 

Written by namazoo in BIWAKO

 

午前9時

事務所に入ると、私用のノートパソコン(PC9821La10)とデスクトップパソコン(PC9821Xa13)の電源を入れ、お茶を飲みながら起動を待つ。ノートパソコンは、パソコン通信専用で朝一番のアクセスはNiftermによる自動巡回。行き先は、日司連ネット、ここは日本司法書士会連合会が運営している司法書士に限定されたプライベートフォーラムだ。今日自己紹介をしている新入会員はいるのか。昨日のあの議論の続きはどうなっているだろうか。実務相談室にはどんな質問があがっているだろうか。10の会議室は内容盛りだくさんだ。おっと、一番大事な研修に関する部屋も当然にある。その他に、8つのパティオ、2つのホームパーティ(NiftyHPは近々なくなるそうだ)、すべて所属司法書士や全青司(全国青年司法書士協議会)関係、またクレサラネット(クレジット・サラ金問題に関心ある司法書士のネット)、など一通り目を通す。たまにメールも届いている。

デスクトップでは、16MBのメモリーを80MBに増設した旧式マシンが、DTIを経由してデジタル回線でインターネットとつながっている。Netscape Navigatorを起動させ自分のホームページ(http://www.bekkoame.or.jp/~namazoo/)のゲストブックを見ることが日課だ。新しいゲストの方には、お礼のメールを送らせていただく。特に司法書士を目指して勉強している、というコメントに出会うと思わず「ガンバレよ」と言いたくなる。

次にメールソフト(Becky! Internet Mail version 1.12)を立ち上げメールを受信する。ホームページのFormから送られてくるメール、ホームページの「登記相談室」に寄せられてくるメール、ホームページをご覧くださった方よりのメール、同職者からのメール、メーリングリストが3本、情報収集のためのメールニュースが2本、その他およそ一日に100通は下らないメールに目を通す。「相談」メールにはすべて返事を差し上げている。登記相談室に掲載させていただいているのは一部に過ぎない。

電話が入る。手形訴訟の件で打ち合わせの時間調整だ。明日の午後2時と決めた。

もう11時からの「取引立会」の準備をしなければならない時間だ。今日の立会は市内の銀行での予定で、物件は普通の個人住宅(土地・建物)だ。事件としては、現在設定されている担保権を2つ抹消し、所有権移転をしたのち、買主が住宅ローン融資を受けるための抵当権設定登記の4件連件事案である。しかし気は抜けない、何があるかわからないのが「立会」であり、しかも数千万円の金額が動くのである。念には念を入れて、再度準備書類の点検をしなければならない。(つづく)

午前11時

取引立会には、入念な準備が必要だ。昨日準備をしておいた関係書類を再度チェックし、早めに事務所を出る。しかし、出る間際に限って電話がかかってくるというのも不思議なものだ。車で20分ほどのA銀行の支店に向かう。行員に支店長室に通される。普通銀行での取引は応接室や簡単な衝立てで仕切られたテーブルでおこなう場合がほとんどであるが、支店によっては部屋がなく、支店長室で取引という場合もある。

すでに売主、買主もそろっており、仲介業者に紹介をいただき、椅子に座る。ここからが司法書士の重要な仕事である「取引立会」となるわけだが、単に必要書類の確認をすればよいというものではない。基本に据えておかなければならないことは「同時履行の確保」ということである。すなわち、抹消される担保権者には必ず弁済金が手渡らなければならず、売主には売買代金が手渡らなければならない。ここを見落とすと弁済を受けていないのに抹消をしてしまうことになってしまう。そして、最終は金の出所であるA銀行、ここは何と同時履行になるのか。すなわち、当該不動産に間違いなく1番抵当権が設定されるという確約を司法書士がすることによって、融資は実行されるのである。

取引とは、金の動きであり、金の動きと反対方向に書類が動くのである。そしてそれらはすべてが「引き換え」でなければならない。そのことを、唯一司法書士のみが全体を見通し、調整し、取引関係者の権利を確保し、いわゆる「決済」を無事終結に導くことができるのだ。大きな責任がのしかかってくる。

そばで、決済金の計算をしている。固定資産税の分担割の説明をしている。行員は売主に「代金の一部でも当行に預金をしてもらえないか」と頼んでいる。売主は「この金は次の家の代金で今日振り込む予定です。」と謝っている。そんな中で、司法書士は黙々と書類の確認を行う。印鑑証明書と押印を比べて実印に間違いがないことを確認する。至難の技ではないが、開業間なしの新人司法書士にとっては胃がキリキリと痛む瞬間だ。

「あっ!」権利書を見て思わず声を出した。「違いますねぇ」というと、売主も売主側の仲介業者も「そんな馬鹿な」と、こちらを見る。しかし、何度見ても権利書の番号が違うのだ。「権利書」とは正式には「登記済証」、さらに正式に言うならば、「登記義務者の権利に関する登記済証」であるが、ある不動産の権利書であるかどうかは、登記簿に記載されている受付年月日と受付番号が権利書に記載されているそれらと一致しているかどうかということで確認する。登記簿には(登記簿謄本を見ているわけだが)「受付第1234号」とあるのに、権利書には「受付第1233号」となっているではないか。この番号は暦年更新であり、同じ日付と同じ番号のものは2つとないわけである。(同じ登記所では、ということだが。)

「偽造」という言葉が脳裏をかすめる。再度じっくりと眼光背紙に達するほどに眺める。登記所の朱印といい、偽造とは思えない。受付年月日からみて相当な紙の変色もある。おそらく権利書だろう。そう思った。しかし、しかしである。司法書士が思ったからといって取引ができるわけではない。なぜならば登記所において権利書ではないと判断されればどうなるか。少し不動産登記の知識のある者であれば、保証書を添付すればよいではないかと思い付く。本人が登記義務者に間違いなければ、保証は可能なわけだから、私は保証書作成の準備にかかった。

書類に署名をいただきながら、「だめだ!!」と心の中で叫んでいた。

万一権利書と認められなかった場合、保証書をつければよい。しかし、所有権移転の保証事件は「事前通知」である。事前通知とは登記所が登記を行うまでに、登記義務者に葉書で確認を行い、その葉書に本人が署名し、実印を押印したものを登記所に届ける(郵送でもよいが)ことにより始めて登記が行われる、チェック制度である。このはがきを登記義務者が故意に破棄したらどうなるか。決済は済んでいるのに登記ができないことになってしまう。しかしそんなことはまずないと考えても、葉書が戻らなければ登記ができないということは、所有権移転登記に続く抵当権設定登記は受け付けられない、ということになる。銀行が融資をするはずがない。ということは取引延期か。しかし、売主は、今日金が要る。この決済を延期にするわけには行かない。しかし、「大丈夫でしょう」とやり過ごすには危険が大きすぎる。さあ、どうする。自問自答しながら、融資担当行員の方を見る。「先生よろしいですか、融資実行して」そう言って、すでに現金を抱えて立っている。私は意を決した。(つづく)

午前11時30分

「だめです。権利書番号が一致していませんので、権利書と認められません。このまま決済していただくわけにはいかない状態です。」と、とにかく行員に言って、売主と買主双方の仲介業者の顔を見た。「そんなばかな」という言葉と「それじゃいったいどうすれば」という言葉にならない言葉が支店長室に充満していった。私は間を置いた。それは、どう処理するのかという最終地点を探る時間でもあった。売主が口火を切った。「そういわれましても、私どもに権利書はこれしかありませんので。何かのマチガイでしょう。といって当時の司法書士さんを呼んでくるわけにもいかないし。」私は、その権利書の表紙に印刷されている司法書士がもはや生存されていないことを知っていたが、売主はまさかそのことを知って呼んでこれないといったわけではないのだろうが。

売主の仲介業者が登記所に行って聞いてくると言い出した。当事者に納得してもらうためにも、「番号が違います、はい取引はできません。保証書でしますから、決済は後日に。」というようなことではだめだろう。これじゃいくらなんでも当事者は納得いかない。それじゃ何のために後生大事に権利書を保管してきたのかわからなくなっていまう。司法書士が あたら疎かにしてはならないことは、「権利書」というものに対して一般の方がもつ意味の重さを、十分認識すべきであるということだ。家を抵当に入れることが即家を人手に渡すことのように感じられるひとが如何に多いか。それが証拠に、権利書はよく仏壇の奥に仕舞い込んでおかれ、そのような権利書には線香の匂いが染み込んでいる。それほど大事な権利書が如何に登記のプロとはいえ、「あきまへん」の一言でただの紙切れにされてしまうことは、感情的にも理屈の上でも納得のいかないことであることは十分に理解をしておかなければならない。

おそらく、登記所はOKというだろうな。という感触があった。これは経験以外の何者でもないが、しかし、結果はわからない。あくまで相手を裏切らないためにも余計な期待は持たせてはいけない。私は時計を見た。もはや11時30分を回っている。時間がない。私は切り出した。「最終的には登記所が判断することでありますし、登記所に確認いたしましょう。仲介の方に行っていただいてもよいのですが、私が直接確認しないことには、こちらの銀行も安心して融資の実行ができないだろうと、いや別に、業者の方が信用できるできないの問題ではなく、そう思いますので、私も行きますから。」そう行って、結局売主側の業者と共に登記所へ行くことにした。

さて司法書士が取引の席を離れることは大変である。まず、書類をすべて仕舞い込む。司法書士は確認した書類を机の上においておくのだが、抹消書類、売渡書類、設定書類、そのどれ一つとして、最終決裁が終わるまで、カバンやファイルの中に仕舞いこんではいけない。少なくとも私はそう考えている。金ももらっていないのに書類だけ自分の手の届かないところに行ってしまう当事者の気持ちへの配慮ととあくまで同時履行を守ろうとするためである。司法書士が書類を確認するのは確認であって、いまだ司法書士の手の内に書類は来ていないのである。だから、取引が完了するまで、書類はテーブルの上に出されたままになっている。その状態で席を離れる。この場合、書類を持っていくべきかどうかである。いまだ書類確認途中であるが、確認した責任はあるだろう。不在の間に書類の一部がなくなった場合、誰が責任を負うのか。わたしは「決済前ですが確認した書類は一応持っていきます。私が不在の間に金銭のやり取りは行わないでください。」そう言って、登記所に向かった。

登記所は12時で午前中の執務が終了する。市役所などのように昼休み中も交代で執務をしていることはない。完全にシャットアウトである。ある登記所など登記所の入り口のドアを閉めカーテンを引き、表に昼休み中の札を下げ、まるで外部と完璧に遮断されなければ十分な休息が取れないとでも言うのであろうか。それとも、朝から精一杯国民の皆さんの立場で親身になって執務をしてきたので、昼休みぐらい静かにさせてください、ということなのだろうか。何れにしても12時までに到着しなければ、1時までの1時間を無駄にすることになってしまう。それは単なる時間の無駄だけではなく、取引の終了時間の遅れ、ひいては書類作成、登記所への書類提出の時間の遅れに影響し、取引が正常に終わることを予定してのスケジュールが大幅に狂ってしまうことを意味している。5時の約束は大丈夫かな。ちらっとそんな先のことまで脳裡をかすめる。焦りからくる車の事故は、元も子もなくす。そんなときはかえってゆっくり行ったほうがマシだ。車のハンドルを握りながら自分を落ち着かせていた。「急いでも、慌てない」誰の言葉だったっけ。時計はすでに11時45分を指している。(つづく)

午前11時50分

「今、取引の最中なんですが」と受付で係員の注意を引きつける。こちらには時間がない。昼休み前のわずかな時間でことを済ませてしまわなければならない。 「権利書の番号が1番ずれているんですが...、これで登記出させていただいてよろしい?」 登記所の誤りであることや、ましてや登記所の責任などを持ち出しては、話が進まないことは確実だ。ここは黙って結論だけをいただく。「......」「いいんじゃないですか。」係員は権利書を眺めながらつぶやいた。「申請書が何処に回るかわからないので、何処にいってもいいように付箋を付けてもらえません。」(注:この意味は、登記申請書がどの登記官の調査に回るかが分からないので、誰のところにいっても大丈夫なように、申請書に付箋紙を付けて権利書OKの旨を書いておいてもらえませんか、ということ。)係員を促すように、向うにいる数人の調査官のほうを見る。果たして、係員は権利書をもって、調査官の方に行き、そこでなにやら話している。わたしが見ていると、時折調査官がこちらを見る。「出させていただいてよろしい?」調査官の方に歩きながらいう。「出していただいていいですよ。」調査官は言うが、こんないいかげんな言葉はない。出すぐらい了解があろうが無かろうが出せるわけで、権利書について補正にならないかということを確認しているのに、と喉まで出かけた言葉を抑えて、「じゃあ、どうしましょう、登記所と打ち合わせ済みと付箋を付けておきますので、今取引中で、午後申請しますのでお願いします。」数名の調査官に聞こえそうな声で言って、隣に立っていた仲介業者に、大丈夫だということですからこれでいきましょう、とこれもまた調査官に聞こえるように言いながら、登記所を出た。時間のことを忘れていたが、時計は12時を2、3分過ぎていた。昼のチャイムの音も聞こえなかったようだ。しかし、帰り際にあたりが暗く感じられたのは、12時で部屋の照明が消されたためだったのだ。

取引現場の銀行に戻ったのは12時30分近くである。「権利書はOKでしたから再度書類の確認をさせていただきます。」といって、ファイルにしまい込んだ書類を再度テーブルの上に出して、確認作業に入る。すべての確認作業がすむと、おもむろに、書類OKのサインを出す。物の本によると「決済していただいて結構です」と司法書士は宣言をする、ことになっているわけですが、おそらく個々の司法書士によってその流儀は違うだろう。しかし、どのような形にしろ、司法書士の取引立会いのすべてはこの一言に集約されるわけであるし、司法書士もまたここにおいてその責任を負うこととなる。 東京地裁平成3年3月25日判決(判例時報1403号47頁)はいう。 「司法書士に登記が必要な取引内容を告げ、取引に立ち会って登記を完了させることを依頼する場合には、依頼者は、単に登記手続のみならず、登記に関する限り、取引上支障無く、手続が終了するよう司法書士が注意をしてくれることを期待し、その期待の上に立って取引を行うのが一般的であり、それが、司法書士の専門家である所以である。」と。

銀行から融資の実行がなされ、いったん債務者(買主)の口座に入るが、同時に口座から引き出され、買主に渡される。買主はそれを売主に渡す。小切手である場合もあるが、現金である場合もある。今日の取引は小切手でよかった。現金を眼の前で数えられた時には、時間がかかってかなわない。登記所に提出するのは執務時間内であれば、5時まで許されてよいはずである。しかし、なぜか午後3時までとの不文律なのか強い要請なのか知らないが、そのような慣行があって、司法書士はどうもお上の言うことに従う習性があるらしく、先ほどから時間が気になって仕方がない。売買代金のあとは固定資産税の清算だ。固定資産税は毎年1月1日現在の所有者に課税される。よって、年度の途中で所有者が変わってもその年は前所有者に課税されるが、実質的には新所有者が支払うべきものなので、その分を買主が売主に支払う形で清算をするわけである。細かく言えば、1月1日現在の所有者に4月1日から翌年3月31日までの税金が課税されるので、買主は決済日から3月31日までの税金を売主に支払うことになる。ただし、この点関西と関東で扱いが異なるようにも聞く。最後に仲介業者の手数料と司法書士の登記費用が払われる。領収書の何十万円という金額を指し示しながら、これが登記所に支払う印紙代等の実費で、こちらの数万円が司法書士の手数料です、と説明をしないと全部が司法書士の報酬だと思いこんでいる人が如何に多いことか。

不動産登記法はその前身である「登記法」の時代から、純然たる対抗要件としての登記制度と登録税(現行登録免許税)徴収という全く異質な目的を担わされてしまっている。明治19年に登記法制定時より地券制度廃止にかわる手数料徴収という目的を負わされてしまっているのである。明治19年7月元老院において、箕作麟祥(みつくりりんしょう)は、この法案(登記法)は「一には民法上第三者に対する効力を固定ならしむる性質を帯び一には物件所有者の登記を受くるより税金を徴収する性質を帯び二者相い混合して成立せるが如し」といって修正案を出したいが、そうすれば本案が全廃となって大混乱が生ずることを恐れる、よって「目下しばらく司法官吏をして登記の事務を掌らしめ収税の事務と混淆してこれを行うも後来は必ず明らかに分割せざる可らず」と言っている。 (原文漢字カタカナ交じりを漢字かな交じりに変更) すなわち、登記の手数料と言うならば、もっと安くてよいはずだ、徴税は別途税務署に行わせればよいことではないか。この2つの目的を一つの登記法に盛り込むのはおかしい、と言うのである。 箕作が将来きっとこの二つは分離されるべきだと言ってより、すでに110年が経とうとしているが、日本という国家は、ついにそのことを為し得ず、今日、登録免許税法改正の議論のまさに原点がここにあると言えよう。

鍵の引渡も済み、買主は売主に近隣のことで何やら聞いているが、司法書士の現場での仕事はここまでである。急いで、事務所に帰って書類を整えなければならない。(つづく)

午後1時30分

事務所に戻ると、まずすべきことは、...何と言っても「腹ごしらえ」である。昔から「腹が減っては...」とよく言うが、まさしく司法書士もサイムライ業としてもっとも重要なことである。しかし、昼食を12時にきちんと食べられる日のなんと少ないことか。多くは1時ごろだったり、3時頃だったり、場合によっては食べられないこともたまにはある。ここまでして、司法書士は何を追い求めているのだろうかと、ふと思う。

さて、いよいよ書類の作成に取り掛かるわけであるが、ここで、今日の事件を少し整理しておこう。

1.抵当権抹消(登記権利者A:登記義務者B)
2.抵当権抹消(登記権利者A:登記義務者C)
3.所有権移転(登記権利者D:登記義務者A)
4.抵当権設定(登記権利者E:登記義務者D)

以上4件のいわゆる「連件処理事案」である。特に問題となるような個所はない。

ここで書類の作成過程を見せても、それは司法書士事務所の楽屋裏であり、もっとも興味のある部分ではあるだろうが、決して面白くも何ともない単純作業でなので省略する。「えっ?司法書士の重要な職務の一つである、というより基本中の基本であり名称にも”書士”とあるように、書類作成が本業だと思うのに、それがどうして”単純作業”なんですか?」

確かに、その疑問はわかる。しかし、現在のワープロ、コンピュータの発達は司法書士の文書作成作業を極度に単純化してしまっている。特に「司法書士専用」ソフトを使うとはるかに作業は単純化、効率化されることは間違いない。ちなみに、筆者は専用ソフトは使わない。その意味でも、現在における司法書士の職務の中心が「書類作成」からそこに至る過程での相談や法律判断、事案の整除といった部分に大きくシフトしてきているといえる。逆説的に言えば、前段部分(後記「事務の前段部分」)がきちんとしておれば、登記の申請書は誰でも作れてしまうということになってしまう。だから、司法書士報酬も当然1枚いくらというようなものではなくなってきている。(ただ、残念ながら一部にいまだ残ってはいるが。)

Of course、もちろん、司法書士の職務は不動産登記だけではないことはいうまでもなく、商業、法人登記は言うに及ばず、裁判事務や供託事務も職務範囲となっている。ここでは、とくに今日受託した登記申請事件に限って、司法書士の登記事務の処理過程を復習してみる。


司法書士事務の直接支配

事務の前段
依頼者 −−−>法律要件事実を聞き出す 調 査 −−−>原因証書その他の添付書類、人・物・意思の確認 判 断 −−−>法律効果 手続手段(登記) 受 託 −−−>委任状などの作成 事務の後段 書類作成−−−>申請書など 申請代理−−−>出頭 司法書士事務の間接支配(登記所支配) 受 付 −−−>順位確保 審 査 −−−>受理・却下・取下 登記実行 交 付 −−−>登記済証など還付書類 司法書士事務の直接支配 引 渡 −−−>登記済証、謄本など (なお、この表は四国ブロック青年司法書士協議会編:司法書士不動産取引必携より抜粋)


かつての、司法書士業務は上の表でいうならば、受託ないしは書類作成から始まっていた。しかし、その前段階に注目し、その部分こそが重要なのであることの認識が今日当然のものとして理解されている。「取引立会」は、上の表で言うならば、受託の部分に該当するのではあるが、それは立会当日のことであり、当然立会は依頼者からの「予告」にはじまり「事前準備」を経て、当日の「本番」を迎えるのである。

しかし、いくら事前準備をしておいても当日どのようなアクシデントやハプニングがあるか予想はできない。今日の取引がそのよい例だ。
書類ができれば、印紙を貼り、再度内容を点検チェックする。そして、登記所へ提出に行く運びとなる。ようやく「司法書士の半日」が終わろうとしている。(つづく)

午後3時

書類を入れたカバンを持ち、車で登記所に向かったのは午後3時であった。登記所まで5分程度であるが、駐車場で場合によっては30分は待たされることもある。今日は意外とすんなり駐車できた。庁内に入ると、まず受付で、持ってきた申請書を提出する。といっても、カウンターの上に置かれている「受付箱」に黙って入れるだけであるが...。

しかし、この受付箱が実は重要な意味があるのである。単なる箱と思ってはいけない。不動産登記法を少し勉強された方にはお分かりでしょうが、同法6条は権利の順位をこう規定している。「権利の順位」は原則として、「登記の前後」による。そして、「登記の前後」は、同区にあっては「順位番号」、別区にあっては「受付番号」による。 順位番号は、受付番号順であるから、結局「受付番号」が権利の順位を決定しているのである。そして、受付番号は、登記所が受付けた順に付番するのであるが、それは「受付箱」に入っている順に行なうので、結局は箱に入れた順が権利の順位を決定付けるのである。たとえば登記が競合している場合、どちらの登記申請書を先に箱に入れたかで、関係者にとっては天と地の違いが生じるのである。「これ急ぐから先に登記やって!」と頼んでもやってくれない理由はここにあり、そのことを同法48条は「登記官は受付番号の順序に従いて登記をなすことを要す」(原文カナ)と規定している。

さらに、同法26条は、登記は登記所に出頭して申請することを要求している(例外はあるが)。これは、明治時代のお上に、ものをお願いするのに出向いていってお願いするのは当然だという時代の名残であるという向きもあるが、一つには先ほどの「順位の確保」ということが大きく影響している。すなわち、ある者は直接持参してくる。ある者は郵送してくる。となるとその先後を決定するのは困難である。1日に数十件から数百件の申請があるのであるから、「箱が一つ」であることの意義はまさにここにあるといえる。

さて、申請がすめば、今度は登記済証の受領である。受付で申請の時に付けておいた番号を言うとくれるのであるが、大きな司法書士事務所は、専用のボックス があり、そこに入っているのであるが、namazooのような事務所は番号で振り分けられている。それでも、申請毎に番号が変わるのは面倒なので特定の番号で決めてはいるが。登記済の中に受領書の交付を受けているものがある。受領書とは、登記申請時に登記所から申請書を受領した証明をもらっておくものである。これは登記所を信頼しないためではなく、金融機関などが必要とするためである。この場合は、登記済の交付と交換に受領書を返却しなければならない。間違っても金融機関に受領書の原本を渡してしまっては大変なことになる。もちろん紛失しても、事後処理は面倒だ。

登記済の交付の後は、謄本の受領である。登記は必ず事後謄本(登記後の謄本のこと。後(あと)謄本ともいう。これに対して、登記前に確認するための謄本を事前謄本とか前(まえ)謄本という。)をとり確認しなければならない。なぜなら、登記所も人間であり万に一つの記載の間違いなどがありえるからである。そして、何よりも登記は「登記」(公簿に記載)してはじめて「登記」なのであって、戸籍事務が「届出」である点で異なる。たとえば婚姻は届出により効力を生じ、万一役所の誤りで戸籍に記載されなかっても、効力に影響はないが、登記は申請して受理されても「登記」されなくては、効力は生じない。実務上も登記の依頼者に登記済証と事後謄本をお渡しすることが慣行となっている。そして、事後謄本も登記が完了して登記済証を受領後、謄本の申請をしていたのでは時間がかかるので、登記申請と同時に謄本の申請もしておくのである。これを「同時申請」と言っている。 謄本を受け取ると、待ち合いの椅子のところへ行き、登記済証と事後謄本とを照らし合わせて確認をするのである。間違いなく登記がなされていることを確認してはじめて登記の完了となる。

つぎに、新件の事前閲覧(受託事件処理のために登記簿を閲覧すること)をすませ、本日の登記所での仕事はこれで終わる。...が、司法書士の一日はまだ終わりはしないのである。(つづく)

午後4時

登記所から事務所に戻ると、時計はもう午後4時をすこしまわっている。
登記所から交付を受けた登記済証を整理して、依頼者にお渡しするための準備をする。
登記済証にはそれぞれ表紙を付け、記録簿に記録をし、その他郵送のものは郵送の準備など結構それなりに時間を要する事務手続である。
新件の方は、閲覧の結果登記義務者の住所が印鑑証明書の住所と登記簿上の住所が一致せず住所変更登記が必要なことが判明した。その旨依頼者に伝えなければならない。また、登記費用(司法書士報酬+登録免許税)を伝えることも大事なことではある。
5時にJRに乗る約束であった。
時計を気にしながら、万一間に合わなければ、1台遅れても仕方ないと半ばあきらめながら、朝電話があり明日の午後2時と約束した、手形訴訟事件の資料に目を通す。依頼者との面談で聞くべきこと、確認すべきことがらをきちんと整理しておかなければならない。
司法書士事務所の中は、今日の事件と以前に提出しておいた事件の登記済と明日の事件の準備とまさに昨日・今日・明日が錯綜している。

結局あれやこれやで、5時半にようやく事務所を出て、駅まで徒歩10分、そこからJRで大阪まで新快速で40分だ。地下鉄を乗り継ぎ、大阪司法書士会館に6時半すぎに到着する。毎月開催される「司法書士実務研究会」への出席はほぼ日常化しており、よほどの予定がない限り欠席はしない。知識や技術を磨くことを怠らないことは司法書士のみならずあらゆる職業に共通のことだろう。この研究会は司法書士を中心に学者や法律実務家で構成されており、その研究成果は雑誌NBLに連載されている。

8時半、いや9時前頃に研究会が終わり、親しい仲間と会場近くの居酒屋で食事をする。今日のテーマについての議論やら、世間話から今抱えている問題についての質問など、果ては司法書士制度、法律家制度に及ぶ話に花が咲く。こういった場は、またそれなりに非常によい研修の場でもある。
今日から明日に日付が変わる頃、最終近いJRで我が家に急ぐ。
長いようで短かった司法書士の一日が終わる。 (了)


「司法書士の1日」をお読み下さいまして、ありがとうございます。
以前アンケートに、司法書士の生活がわかるようなものを掲載してほしい、という希望があり、書き始めたものの、なかなか書く時間がなくようやく完結しました。
書いてある内容はすべて私の体験であり、できるだけ事実を書いたつもりです。読まれました皆様方が少しでも司法書士のことをご理解願えれば幸いです。また、司法書士を目指して勉強されておられます方々にとっては、少しでも司法書士のイメージが見え、そこから司法書士への希望を膨らませていただけるなら望外の喜びです。逆に、こんな司法書士なんかなりたくない、と思われましたなら、私の責任ではありますが、これを反面教師とされ、理想の司法書士像を描かれそれを目指してがんばっていただきたいと思います。

これをもって連載を終了します。 連載中、感想や励ましのメールをいただきました各位にはこの場をもって、あつく御礼申し上げます。どうもありがとうございました。今後とも Welcome to BIWAKO は司法書士・土地家屋調査士に関する記事を掲載いたしてまいります。今後ともよろしくお願いします。


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