登記の鉄人

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ここでは、登記の鉄人達の技を紹介したいと思います。

何でもないように見えて、それでいてピリッと隠し味の効いたものから必殺荒業 までと言いたいところですが、登記の鉄人たちの技は、唯唯、正確な文字、正確 な書類、正確な手続がすべてであり、法の正義を実現することのなんと微々たる 歩みであることか。
しかし、そこに人生を賭けた鉄人達がいる。あなたの、ほら、すぐ近くに。


つくられた親子関係−嫡母・庶子と呼ばれた人たち(次回予告)

渉外相続に関する登記の鉄人−死者の国籍−

胎児に関する登記の鉄人−出生前の登記権利者たち−

名変に関する登記の鉄人 −たかが名変、されど名変−


プロローグ

    私の手元に、もうぼろぼろになった一冊の本があります。
    いや、本というにはあまりに薄い(B5版35頁)冊子です。

    表題には
    「たかが名変と云うけれど...
    *登記名義人表示変更・更正登記徹底研究*」
    とあり、表紙下部には
    兵庫県青年司法書士会不動産登記研修部編集
    とあります。

    発行年月日もなく、ただ内部の勉強会用に作られた資料集ですが、何年もの間私の大切な
    資料でありました。(現在は「名変事転」として更に充実したものが、別途発行されてい
    ます。)

「名変」とは何か 名変とは登記名義人表示変更・更正登記をいいます。 一般に名義書換を想起されるかもしれませんが、私たち司法書士のいう名変とは、上 記の登記をいいます。 具体的には、登記名義人、要するに所有権の登記名義人、抵当権の登記名義人などあ る権利の登記名義人として、登記されている内容(個人であれば住所・氏名、会社で あれば本店・商号など)に変更があった場合もしくは誤りがあって正しく訂正する場 合におこなう登記です。 なぜ「たかが名変」なのか これは決してその手続の軽視ではありません。そのことは後程お分かりになっていた だけると思います。相対的にいえば、売買のように所有権が移転する法律行為に基づ く登記や、また抵当権設定のように金融に関する登記に比べると、相対的に簡易な手 続であることには間違いがない。その意味から、たかが「名変」というのであろうが クライアントの依頼に軽重はなく、すべてが重要なかつ慎重に処理しなければならな いことには変わりがありません。 では、なぜ「されど名変」なのか その前に、登記というシステム上の二つの重要なポイントについて説明します。 1つは、登記がその効力を「順位」というものに依っているという点です。 併存しうる権利の場合、順位の先のものが優先します。(例:1番抵当権、2番抵当 権)併存し得ない権利の場合、先に甲名義で登記されると、もはや乙名義での登記は 受理されません。(例:Aから甲への所有権移転登記とAから乙への所有権移転登記 が相前後して申請され前者が先に登記された場合) そして、この順位は何によって決定されるかといいますと、登記申請の受付の順番に よって決まるわけです。 もう1つは、登記というものは特殊な場合を除いて、登記簿に記載されている者、登 記名義人が申請人となるということです。もちろん売買の場合を例にとれば、現在の 所有権登記名義人(所有者)と買主が共同申請人となるように、共同申請であっても 一方当事者は常に、現在の登記名義人(所有者)となります。 不動産登記法36条は申請書記載事項の一つとして 申請人の氏名、住所若し申請人が法人なるときは其の名称及び事務所 を規定しています。 そして、なお重要なことは登記を為し得ず、登記申請が却下される場合を定めた、同 法49条6号が、申請書に記載の申請人の記載が登記簿と符合しない場合を定めてい ることです。 A(登記簿上記載の住所:X町100番地)が売主、甲が買主として、売買による所 有権移転登記を申請する場合に、登記義務者であるAの住所が「Y町200番地」と 記載されていたのでは、真実Aの意思にかかる申請かどうかが判断できないからです。 では、どのようにすればよいのかといえば、先の例で登記簿上のAの住所を「X町1 00番地」から「Y町200番地」に記載の変更をすればよいわけです。もちろん、 Aが「X町100番地」で登記をしてより以後に住所を移転しその結果現在住所が「 Y町200番地」となった場合ですが。 ここで、冒頭の「所有権登記名義人表示変更登記」が必要になってくるわけです。 この登記は、ただ、単に住所が変わったというだけで登記をする場合は希であり、ほ とんどが何かの登記の前提としてなされるわけです。 もう、すでにご推察だろうと思いますが、そうです、この「名変」がうまく処理でき ないと後に続く肝心の売買登記も抵当権の設定登記もすべてできないわけです。例え るならば、親亀の背中に乗った子亀、孫亀なのです。 しかも、名変が必要なケースにもかかわらず、忘れたとします。すると登記所では書 類調査の段階で補正となりますが、この補正は絶対に修復不可能なのです。なぜなら その時点で「名変」を申請しても、受付は溯れず、絶対に現在申請中の登記申請書記 載の登記義務者の住所と登記簿上の住所とを一致させることはできないのです。この 受付が溯れないということが、先に出てきました登記の順位が受付の順によるため、 受付順は絶対に崩せないという原則になっているからです。 たかが「名変」1つ、見落としたために、何千万、何億という取引による登記が受け 付けられず、クライアントには計り知れない損害を与えることになってしまいます。 もちろん司法書士の信頼が地に落ちてしまうことは言うまでもありません。 ここに「されど名変」の真の意味があります。 鉄人達の技 ・所有権の登記をした日が、平成10年5月1日 住所を移転した日が、平成10年5月6日である場合 所有権登記名義人表示変更登記を申請します。 所有権の登記をした日が、平成10年5月1日 ・住所を移転した日が、平成10年4月30日である場合 所有権登記名義人表示更正登記を申請します。(申請時点で住所を誤っていたと いうことになります。) ・では、両者が同じ日付の場合は? 原則:変更登記によります。 ・有限会社から株式会社に組織変更した場合は「名変」登記をしますが、A会社がB会 社に合併したときは、権利の移転登記をします。 ・「帰化」による氏名の変更は「名変」です。 ・住所が「100番地」から「3番15号」になった場合、もちろん「名変」です ・日本に住所がある人が、長期海外赴任で外国に住所を移した場合 日本では住民票は閉鎖されます。この場合ももちろん「名変」です。 住所は登記簿上「アメリカ合衆国カリフォルニア州サンセットストリート5215番地」 などと、当然日本文字で記載します。 ・外国籍の人で、通称名がある場合 通称名から本名へ、本名から通称名へ登記し直す場合 「名変」ですが、この場合は「更正登記」となります。 ・住所を数回転々して、登記簿上の記載住所と同一になった場合 「名変」は不要です。 ・会社で本店が「A町100番地 ○○ビル」から「A町100番地」に変更した場合 「名変」は不要です。

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