登記の鉄人

[Welcome to BIWAKO] [登記相談室] [登記先例・通達・回答]

ここでは、登記の鉄人達の技を紹介したいと思います。

何でもないように見えて、それでいてピリッと隠し味の効いたものから必殺荒業 までと言いたいところですが、登記の鉄人たちの技は、唯唯、正確な文字、正確 な書類、正確な手続がすべてであり、法の正義を実現することのなんと微々たる 歩みであることか。
しかし、そこに人生を賭けた鉄人達がいる。あなたの、ほら、すぐ近くに。


[登記の鉄人]最初にもどる

渉外相続に関する登記の鉄人−死者の国籍−


プロローグ

    死者に国籍はない。
  死者にとって、生前の国籍などというものはもはや無意味なのだろう。残された家族
  の心の中をこそ永遠の本籍地と定めたはずである。死者の国籍などもはや問題となろ   うはずはない、そう誰しもが考えるのである。
  しかし、ここにその死者の国籍を問い続ける者がいる。
  渉外相続に関する登記の鉄人達である。彼らは「死者の国籍」という過去の事実に執
  拗に執着し続けるのである。一片の法律に従うために。

  その法律、明治31年法律第10号はその特異な名称で彼らの心に刻み込まれている。
  その名を「法例」という。「法例」という名の法律の一条文が、彼らに「死者の国籍」
  を問わせるのである。 法例第26条  相続ハ被相続人ノ本国法ニ依ル
第1章  国際私法の原点−法例−
日本の法律は、日本人と日本国内において適用されるのが原則とされている。日本人である限り 外国にいても適用され、日本国内にある限り外国人にも適用されることになる。 ところがそうすると、外国も又同様の原則をもっているとすれば、外国にいる日本人には日本の 法律とその地の法律とが適用され、日本にいる外国人には、同様に日本の法律と外国の法律とが 適用されることとなる。そのことが互いの法律間の矛盾、抵触という困難な問題を発生させるの であるが、そういった問題の領域は渉外法もしくは国際法と呼ばれている。 国際法には特に国家間の問題や刑事問題に関連する国際公法と呼ばれる領域と、民事に関する国 際私法という領域とが存在してる。前者は、アメリカ国内でイギリス人を殺害してしまった日本 人は、どこの法律で裁かれるのかという問題や、太平洋上空を航行中の日本航空機内でアメリカ 人とイギリス人がけんかをして暴力事件となった場合に、やはり問題となる。 しかし、いま、ここで注目しようとするのは、後者、民事に関する問題である。 日本人とアメリカ人とが売買契約を締結しようとするとき、それはどの法律に照らして効力が生 じるのであろうか。そもそも、日本にいるアメリカ人が成人かどうかは、どの法律に照らして判 断するのであろうか。日本人とアメリカ人とが婚姻をしようとするとき、それはどの法律に照ら して有効となし得るのであろうか。日本にいるアメリカ人は、どの法律によって遺言をすること ができるのであろうか。日本にいるアメリカ人が死亡した場合の、相続関係はどの法律によって 考えられるのであろうか。 このような場合に、日本の法律はどのように適用するのかをあらかじめ決めておく必要があり、 それは外国も又同じで各国とも名称は異なっても、このように自国の法律が他国の法律と抵触す るような場合の判断基準をもっている。この判断基準が日本の場合は「法例」という名称の法律 なのである。 第2章  被相続人
今、日本にいる中国人(中華人民共和国の国籍を有する者)が死亡したする。 この死亡により、相続が発生し、その者が所有していた日本の不動産がその妻や子供達に相続さ れる、と考えてよいだろうか。 これは、無意識に日本の法律に従って考えているわけであって、事はそう単純ではないのである。 そもそも、人が死亡して相続が発生し財産の承継が起こると考えていることすらが、日本の法律 に基づく考えであり、日本で死亡した中国人に関してそのように考えて差し支えないのかは別問 題である。もちろん日本の法律は日本国内にいるすべての人に適用されるとはいえ、無条件にそ う考えてしまってよいことにはならないのである。 この場合は、まず日本の「法例」がどのように決めているのかを知らなければならない。この法 例こそが、渉外民事法律関係を考える上での出発点になるものなのである。 法例第26条  相続ハ被相続人ノ本国法ニ依ル 法例第26条はこのように規定をしている。 これによれば、相続に関しては、被相続人の本国法によらなければならない。 被相続人とは、相続人に対する用語で、相続される人、すなわち当該死亡者を言うものである。 そして、その者の本国法によりなさい、というわけである。「本国法」とは被相続人が死亡時点 で有していた国籍をいうものであり、この例では、あきらかにそれは「中国」中華人民共和国を さすものである。 ここで、一つの事実が明らかとなった。 この者の、相続に関しては中華人民共和国の法律によって考えるのだと言うことです。 ということは、仮に中華人民共和国の法律によれば、死亡により相続は生じないと規定している のであれば、相続は生じないということになるのであろうか。 いずれにしても、この事実から言えることは、中華人民共和国の法律を知らなければならないと 言うことである。 第3章  死者の国籍 相続に関して、法例(という名の法律)の規定により、被相続人の本国法(死亡時点での国籍の あった国の法律)を知る必要があることがわかった。 先の、中華人民共和国の例を少し見てみよう。 この場合、中華人民共和国法によると日本の法例はいっているわけだから、中華人民共和国法を 見ることとする。 ここで、厄介な問題は、中華人民共和国の法律が例えば  1)被相続人の死亡地の法律による  2)不動産に関しては、不動産所在地の法律による と規定していた場合、上の例では、再度日本の法律が適用されることになる。しかし、日本の法 律では中華人民共和国の法律によるとなっているため、ここで循環の輪ができてしまい結論が出 ないこととなるため、日本の法例は特に「反致」と呼ばれる規定をもっている。 法例第32条  当事者ノ本国法ニ依ルべキ場合ニ於テ其国ノ法律ニ従ヒ日本ノ法律ニ依ルヘキ         トキハ日本ノ法律ニ依ル(但書:省略) すなわち、本国法によれば、日本によることになる場合、例えば本国法に不動産所在地法による と規定されている場合、その場合は日本法によるということだ。   本国法の決定に関しては、国際私法上困難な問題がある。 それは、未承認国に関するものであるが、ここでは、参考文献を上げるに止めておく。 参考文献/山田鐐一著「国際私法」有斐閣 第4章  相続登記手続 具体的相続登記手続においては 1)国籍の確認 2)本国法の決定 3)本国国際私法の内容確認 4)その結果日本法になる場合(反致)とならない場合 5)相続の準拠法の決定 6)準拠法が日本法以外の場合、当該国の相続法の内容確認 7)相続人の確定 8)必要書類の作成、徴収 9)登記申請 という段階で進んでいくわけであるが、ここで困難な問題は、準拠法が外国法である場 合、当該国の相続法の内容を知る必要があるということだ。たとえば、スエーデン民法 といっても簡単には手に入らない場合も多い。外国法とその日本語訳をどのように入手 するか、そういった法情報へのアクセスについての技術も鉄人達の重要な技なのである。 次に、法律の内容がわかり、相続人がわかったとして、具体的登記申請に添付する「相 続証明書」の準備が大変な作業となる。日本や韓国のように戸籍制度がある国とは限ら ないわけだから、戸籍制度のない国での相続に関する証明書をそろえるということには 鉄人達の技がひかるのである。 例 韓国の場合 1)日本法例26条により、相続は被相続人の本国法による。 2)大韓民国・国際私法(「大韓民国渉外私法」の題名を改正(2001年4月7日法 律第6465号)同年7月1日から施行)によれば、「相続は死亡当時被相続人の本国 法による」とあり、法例と抵触をしない。 3)そこで、相続に関しては韓国民法が適用になる。 ただし、被相続人が遺言で次の@Aのどちらかを明示的に指定したときはその法による こととなっている。 @指定当時被相続人の常居所がある国家の法  ただし、被相続人が死亡時までその国家で常居所を維持した場合に限る A不動産に関する相続に対しては、その不動産の所在地法 4)被相続人の満15歳からの戸籍が必要などの点は日本の相続と同じで、ほぼ日本と 同じ手続となる。

[登記の鉄人]最初にもどる

[Welcome to BIWAKO] [登記相談室] [登記先例・通達・回答]
この Pageに対するご意見、ご感想は、 hasegawa@shihoshoshi.com におよせ下さい。